第211回国会(常会) 質問主意書 質問第101号
令和5年6月9日 浜田 聡 参議院議長 尾辻 秀久 殿
準生活保護措置と困難女性支援法の関係等に関する質問主意書
生活保護法第一条(昭和25年法律第144号)により、外国人は生活保護法の適用対象とならないが、政府及び地方公共団体は、当分の間、生活に困窮する外国人に対し、一般国民に対する生活保護の決定実施の取扱いに準じて、「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」(昭和29年5月8日社発第382号厚生省社会局長通知)(以下「通知」という。)に基づき、必要と認める保護を行っている(以下、通知に基づく保護措置を「準生活保護措置」という。)。この通知は、かつては全ての外国人を対象にしていたが、来日したばかりの外国人が大量に準生活保護措置を求めたこと等をきっかけに改正され、今では、出入国管理及び難民認定法(昭和26年政令第319号。以下「入管法」という。)に基づく在留カード(以下「在留カード」という。)又は日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法(平成3年法律第71号)に基づく特別永住者証明書(以下「特別永住者証明書」という。)を交付された者以外は対象とされなくなった。
その後、困難な問題を抱える女性への支援に関する法律(令和4年法律第52号)(以下「困難女性支援法」という。)が成立したが、ここで、 困難女性支援法に基づいて、在留カードないし特別永住者証明書を持たない外国人を保護してしまうと、通知の改正が骨抜きになる。すなわち、在留カードないし特別永住者証明書を持たない外国人は、地方自治体に対して準生活保護措置を求めずとも、女性相談支援センターが行う困難女性支援法第9条第3項第2号の一時保護や、同法第12条第1項の自立支援を求めれば、結果として、住居も食事も確保されるのみならず、その対象となる者が監護すべき児童を同伴する場合には、当該児童の状況に応じて、当該児童への学習及び生活に関する支援が行われることとなる。
右を踏まえて、以下質問する。
1)入管法第54条第2項により仮放免された外国人は、在留カードではなく仮放免許可書が交付される。在留カードないし特別永住者証明書を持たず、ただ仮放免許可書が交付されるに過ぎない外国人は、準生活保護措置の対象とならないと認識しているが、政府の見解如何。
一について)
生活保護法(昭和25年法律第144号)による保護に準じた保護については、「生活保護問答集について」(平成21年3月31日付け厚生労働省社会・援護局保護課長事務連絡)において、出入国管理及び難民認定法(昭和26年政令第319号。以下「入管法」という。)別表第2の上欄の在留資格をもって在留する者等が対象となる旨を示しているところ、入管法第54条第2項の規定により仮放免された者(以下「仮放免者」という。)は、当該在留資格をもって在留する者等に該当しないため、生活保護法による保護に準じた保護の対象とはならない。
2)困難女性支援法第2条にいう「困難な問題を抱える女性」の定義について
1. 「困難な問題を抱える女性」とは、在留カードないし特別永住者証明書を持たない外国人女性を含むのか。
3)困難女性支援法第12条第一項に基づき、在留カードないし特別永住者証明書を持たない外国人女性を「その保護を行うとともに、その心身の健康の回復を図るための医学的又は心理学的な援助を行」うことは、当該外国人女性の住居及び食事を保証するとともに、同条第3項に基づいて「その対象となる者が監護すべき児童を同伴する場合には、当該児童の状況に応じて、当該児童への学習及び生活に関する支援が行われる」のであるから、事実上準生活保護措置を受けている状況とほぼ変わらない。これは、同法第9条第3項第2号の一時保護を受ける場合も同様である。そうすると、通知を改正し、在留カードないし特別永住者証明書を持たない外国人を準生活保護措置の対象外としたことと矛盾するのではないか。政府の見解如何。
2の1及び3について)
困難な問題を抱える女性への支援に関する法律(令和4年法律第52号。以下「困難女性支援法」という。)第2条に規定する「困難な問題を抱える女性」(以下単に「困難な問題を抱える女性」という。)については、同条において「性的な被害、家庭の状況、地域社会との関係性その他の様々な事情により日常生活又は社会生活を円滑に営む上で困難な問題を抱える女性(そのおそれのある女性を含む。)」と規定されており、御指摘の「在留カードないし特別永住者証明書を持たない外国人女性」であっても、この規定に該当する場合には、困難な問題を抱える女性に含まれる。
また、生活保護法による保護に準じた保護の取扱いと困難女性支援法による施策は、その趣旨及び目的を異にするものであることから、生活保護法による保護に準じた保護の対象とならない者が困難女性支援法による施策の対象に含まれるとしても、直ちに、「在留カードないし特別永住者証明書を持たない外国人を準生活保護措置の対象外としたことと矛盾する」とは考えておらず、また、「在留カードないし特別永住者証明書を持たない外国人を準生活保護措置の対象外としたこととの整合性を図るため」に、困難な問題を抱える女性に、「在留カードないし特別永住者証明書を持たない者は含まれないと解釈せざるを得ない」とは考えていない。
また、通知を改正し、在留カードないし特別永住者証明書を持たない外国人を準生活保護措置の対象外としたこととの整合性を図るためには、困難女性支援法第2条の「困難な問題を抱える女性」に、在留カードないし特別永住者証明書を持たない者は含まれないと解釈せざるを得ないのではないか。政府の見解如何。
2. 「困難な問題を抱える女性」は、生物学的に女性である者のみを指すのか。それとも、性自認(「性自認に対しての政府の認識に関する質問主意書」(第211回国会質問第72号)に対する答弁(内閣参質211第72号)の「1から4まで及び6について」で政府が答弁している「性自認」という用語をいう。)が女性であれば、生物学的に男性であっても対象となるのか。
4)仮放免に係る出入国在留管理庁が令和3年12月に作成した「現行入管法上の問題点」について
1. 「収容されている外国人の仮放免に当たり、身元保証人を付ける例が多いが、保証人の中には多数の逃亡者を発生させている例がある。」という一例として、「弁護士A:約280人中約80人逃亡」という記載があるが、なぜ、そのような身元保証人を付した者に対して仮放免を認めているのか。政府の見解如何。
2. そもそも、入管法第54条第一項は、仮放免を請求するに際し必ずしも身元保証人を付すことを求めていないわけであるが、政府が入管法第54条第一項の請求に際して身元保証人を求める理由如何。
3. 一人の弁護士が約280人の身元保証人になっている現状について、政府の見解如何。
4. 仮放免中の者が逃亡した場合、身元保証人は刑事上又は民事上の責任を負うのか。それとも、身元保証人には道義的責任があるのみであり、何らの罰も科されず、何らの損害賠償責任も負わないのか。
5. 弁護士の中には、入管法第54条第一項の請求を代理することに対する報酬ではなく、単に身元保証人になるだけで報酬を得る者もいるが、身元保証人になるに際し報酬を得てもいいのか。政府の見解如何。
2の2について)
困難な問題を抱える女性には、御指摘の「生物学的に女性である者」のほか、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(平成15年法律第111号)第3条第1項の規定による性別の取扱いの変更の審判を受け、同法第4条第1項の規定により女性に変わったものとみなされる者が含まれるものと考えている。なお、「困難な問題を抱える女性への支援のための施策に関する基本的な方針」(令和5年厚生労働省告示第111号)においては、「性自認が女性であるトランスジェンダーの者については、トランスジェンダーであることに起因する人権侵害・差別により直面する困難に配慮し、その状況や相談内容を踏まえ、他の支援対象者にも配慮しつつ、関係機関等とも連携して、可能な支援を検討することが望ましい」としている。
4の1について)
仮放免の許否については、入管法第54条第2項において、「収容令書又は退去強制令書の発付を受けて収容されている者の情状及び仮放免の請求の理由となる証拠並びにその者の性格、資産等を考慮」すると規定されており、これを踏まえて、仮放免取扱要領(平成13年2月1日付け法務省管警第12号法務省入国管理局長通達(最終改正 令和5年3月15日))第9条において、入国者収容所長又は主任審査官は、仮放免の請求を受けたときは、被収容者の容疑事実又は退去強制事由及び当該被収容者についての審査を担当している入国審査官等の意見のほか、
①仮放免請求の理由及びその証拠、
②被収容者の性格、年齢、資産、素行及び健康状態、
③被収容者の家族状況、
④被収容者の収容期間及び収容中の行状、
⑤出入国在留管理関係の処分等に関する行政訴訟が係属しているときは、その状況、
⑥難民認定申請中のときは、その状況、
⑦出身国・地域の政府又は大使館・領事館等との間の送還手続に係る調整の状況、
⑧有効な旅券を所持していないときは、その正当な理由の有無、
⑨身元保証人となるべき者の年齢、職業、収入、資産、素行、被収容者との関係及び引受け熱意、
⑩逃亡し、又は仮放免に付す条件に違反するおそれの有無、
⑪日本国の利益又は公安に及ぼす影響、⑫人身取引等の被害の有無並びに
⑬その他特別の事情を勘案し、仮放免を許可することができるとしているところである。
仮放免の許否は、これらの事情を勘案して個別具体的に判断されるものであることから、
お尋ねの「そのような身元保証人を付した者に対して仮放免を認めている」理由について、
一概にお答えすることは困難である。
4の2について)
身元保証人は、仮放免の許否を判断するに当たり勘案される事情の一つとして求めているものであり、仮放免者が法令を遵守するとともに、仮放免に付された条件に従うことを確保することに資するものであると考えている。
4の3について)
一人の弁護士が多数の仮放免者の身元保証人となることが直ちに問題となるとは考えていないが、その身元保証をした仮放免者の多くが逃亡している者が身元保証人になることについては、仮放免者の逃亡の防止等の観点から望ましくないと考えている。
4の4について)
仮放免者が逃亡したことによって、その身元保証人がその地位に基づいて刑事上及び民事上の責任を問われることはないと考えている。
4の5について)
入管法及び弁護士法(昭和24年法律第205号)上、弁護士が仮放免者の「身元保証人になるに際し報酬を得」ることが、直ちに問題となるとは考えていない。