まだ夜が、名残惜しげに去ろうとしている午前6時。





「もう早く~! クイックリー クイックリー!!」





女性(グル)は私に申し訳なさそうにお茶をすすめ、



まだ準備しきれていないソウルメイトに何度も声をかける。






2人が私をチェンナイの空港まで送ってくれるのだ。





笑みをたたえたタクシー運転手が、私のキャリーバックを重たげに積み込む。



時間を気にする様子はなく、笑みをたたえたまま、最近新調した自分の車を眺めている。







「ソーリー ソーリー」




シャツのボタンを留め、鏡で自分を確認し、ソウルメイトは準備が出来たようだ。






「私はカメラを持たずに来てたから、ちょっと日本に取りに行ってきます。



 すぐ戻ってくるからね~」



女性(グル)に英訳を手伝ってもらいながら、私はスタッフに挨拶し、






「アイム カムバック スーン。  シー ユー。」







でこぼこ道の大きな揺れに身を預けることにも、すでに慣れていた。





「インド人はホントに時間にルーズやわ。



 それはこれから多くの人に関わることになるあなたにとっては、



 本当に良くないのよ。 本当に直さないと。」






ソウルメイトは神妙に聞いているようだった。






「私と彼は、これから世界中の多くの人に出逢っていくことになるから、



 文化の違いとか、そんなことは通用しないんです。



 彼もわかっているんだけど、身につけていかないと意味がないしね。」






さらに続けた。





「スタッフにも、この状態でいいと思ってもらいたくないんです。



人との信頼関係も、時間や自分をコントロールすることが大切だということを知ってもらいたいんです。



自分の上に立つ人が叱られているのを見たら、そこから感じてくれると思って。



彼(ソウルメイト)の自覚にもつながることと、スタッフの成長にもなることを願ってね。」






女性(グル)の眼差しは、どこまでも深い海のような懐をたたえていた。









この町の朝は早い。





まだ薄い藍色の景色の中、陽気に笑いながらチャイを出す店主。



眠そうな牛を連れて歩くオレンジの衣装をまとった女性。




荷台に大量の果物と揚げたスナックを乗せて客をまつ青年。



小さな商店でサイダーを買う子ども。





笑顔。 行き交う車。 まだ軽い騒音。






生きている。






16日前にインドに到着し、騒音と排気と人混みに驚いた。




その次に私の中に現れた衝撃。






みんな、生きている。






日本でそう感じたこと、ないわけではない。





旅にでて、その土地に暮らすおばあちゃんの畑仕事に出逢ったとき。



テレビに映るオリンピック選手の懸命な姿を見たとき。



障害などで不自由に見られてしまう身体を、



”不便だけど私自身は自由なんです”



そう言って軽やかな笑顔を向けられたとき。





生きている人の姿だった。




でも、日常ではなかった。






ここでは、目に映る日常に、




生き生きとした ”生” があるように感じた。






きっとだから、ここに居たいんだ。



私もその ”生” を望んでいるんだ。






車窓一枚を隔てて、その景色が移り過ぎてゆく。



この一枚にとてつもなく淋しさがこみ上げてくる。






「どんな時間でした?」





私の心中をいつも感じてくれる女性(グル)。






「とにかく来させていただけて、ほんっとうに良かったです。



絶対にすぐに帰ってきます。 母を連れて。



日本に着いたらまず母をくどいて、カメラも買って、



職場に退職を伝えに行きます。」






「お母さん、一緒に来られると本当にいいですね。



で、どんなことを感じた時間でした?」






「ここの人は、今を生きてるって感じですね。



愚痴とか不安とか、言わないってことではないかもしれないけど、



ん~、でも言わないんじゃないですかね。



過去へのとらわれとか未来への心配とか、そんなこと必要ないって知ってるっていうか。



神様と対話して、お任せしているんでしょうかね。



で、とにかく今を楽しもうって」






「そうね。 それから?」







「もともと来るまで体力が本当に心配で・・療養中で、もう一年もまともに動いてないので・・・。




でも、みんなとアルナチャラの周りもインナーパースも歩けて、びっくりだし不思議です。



私にあった恐れとか余分なものがわかったし、



それを脱げばいいってわかったし、



アルナチャラが、あるがままの姿なんだって感じたし・・・。




結局一週間のばすことにして、あとは楽しんでってメッセージ頂いてましたが、



ふたを開けてみたら、有り得ない位激しい頭痛の日々で、



本当に間違いなく頭割れると思いました。



楽しめってこういう意味?みたいな(笑)




でもその中で、私の病気は私が作ったものだったってストンって腑に落ちました。



何かわからないけど、確信したんです。



今は、病気になれたことに感謝しています。



あんなにも恨みがましく思っていたのに、今は全く違います。



本当に病気になれて良かったーなんて思ってるんです。



こんな自分、不思議ですね。」





「良かったですね」







不思議な感覚をいっぱい味わったんだなって、



自分の言葉を自分で聴いて、さらに納得しているようだった。







空港の前で、何度も



「入るところ、間違えたらアカンよ。



まずはデリーで国内だから、デパーチャーズってほうだからね。



大丈夫? っていうか大丈夫よ」






心配と、心配ないことを伝えてくれる女性(グル)。




私は英語も出来ないし、初海外で、そもそも空港のなんやかんやも知らないし、



本当に1人で大丈夫なのかって、内心ビクビクだった。






「行ってきます!」





2人に手を振り背を向けて、あえて大きな一歩で歩きだした。






不安、だったはず。






でも、今感じる自分の感覚は、



爽快感とワクワクに似たドキドキだった。






暑い中、車の排気で濁って見える空気の流れが、私の頬をさするとき、



さわやかな春の風に変わっているような位に、清々しささえも感じていた。







私の中に流れるテーマ曲は、





だ~れにもないしょで、おでかけしようよ~♪ (はじめてのおつかい)