頭が、壊れる。
私の頭の激しい痛みは、全くゆるむことなく私を攻撃し続けた。
意識があることが苦しくて、出来ることなら気絶したいとまで思っていた。
私はバスの窓枠に額をあて、沸き上った熱い頭を冷やしていた。
窓枠の角に頭をぶつけて痛みを負い、今の激痛をまぎらわせようとも試みたが、
まるで幼子が大男と相撲をとるようなもので、全く及ばなかった。
そんな中、急に頭の中に過去の私の姿がぐるぐると現れた。
仕事においての、私。
その職場で、一番先輩という状況だった。
その仕事にかける想いは、きっと人一倍だった。
毎日遅くまで働いた。
後輩や上司の仕事を、度々手伝った。
新人の教育を、当然任された。
後輩からも、上司からも、あらゆる悩みの相談を受けた。
去ってゆく同僚や、上司からも、ここを頼むと毎回託された。
あなたがいるから安心だと、よく言われた。
スタッフが変わってもケアの質の維持が図れているのは、
あなたのおかげだと、いつも声をかけられていた。
私は、調子に乗っていた。
私は、必死だった。
この状況を守らないといけない、と。
もちろん、目の前のお年寄りの安心感や笑顔を、本当に大切にしていた。
自分に何が出来るのか、自分たちはどうすべきなのか、そればかりを考える毎日だった。
明日も同じ笑顔に会えるとは限らなかった。
数時間前に手を振って別れたその方と、二度と会えなくなることも経験していた。
だから、今、どれだけ忙しくとも、まだ新人でも、心を尽くしたケアをしなければいけなかった。
全てのスタッフに、そうであることを望んだ。
それがために、きっと厳しくしつこく指導していただろう。
そういうもんだと思っていた。 間違っていない、と。
でも今、その時の私がぐるぐると現れてくる今、
苦しくて仕方ない。
私はいつも考えていた。 私以外の誰かや何かの事を。
そして、何とかしなければともがき、疲れきっていた。
そうか。
私は、変えようとしていたんだ。
そのまんまのその人や状況を受け入れるでなく、私の思うように変えようとしていたんだ。
そして私は、病気になった。
頭がいつも熱く、のぼせていた。
めまいが激しく、立っていることはあまりにも苦痛だった。
会話するときのあいづちで、わずかに揺れる首の動きが、耐えられないほどのめまいを引き起こした。
人のやや大きめの声に、激しい頭痛を招かれた。
人の動きを見るだけで、目が回った。
仕事はおろか、人との関わりすら、断たざるをえなくなった。
頭、痛い。
頭、熱い。
これ、当時の私の症状に似ている。
あの時の何十倍も頭痛いけど、似てる。
(私だったんだ)
そんな言葉が、胸の奥の方から聞こえた気がした。
彼の前での、私。
職場の同僚だった。
新人で入った彼は、明るくて素直だった。
私も指導をしていたが、他のキャリアのある方々も指導にあたっていた。
言っていることが伝わらず、なかなか成長しない彼に、周りは辟易していた。
そして私に、何とかしてくれと度々訴えてきた。
そんな中、彼から想いを告げられ、しばらくして交際がスタートした。
もちろん内緒の交際だった。
職場では、あくまでも先輩後輩として振る舞い、強く指導していた。
プライベートでも言っていることが伝わらず、コミュニケーションが難しかった。
だからいつも私は疲れ切っていた。
でも、明るく優しい彼が好きだった。
彼と交際を始めて間もなくして、私は体調を崩し、数か月で10㎏体重が減った。
病気になったのは、この頃だった。
彼との交際を知るプライベートの友人たちからは、
彼にすり減らされて病気になったんだと口ぐちに言われた。
離れた方がいい、とも。
私は、悔しかった。
仕事においてもプライベートにおいても、彼を成長させることが必要だと思った。
彼を変えなければと、必死だった。
どこかで、私の不調を彼のせいだとも思っていた。
どんな時もどんな私にも、彼は底なしに優しかった。
大切な、存在だった。
そんな彼に、自分が自分でない程に具合の悪い私は、
コントロール出来なくなった感情をぶつけ、そして不安に襲われた。
あの時の私、どんな顔してたんだろう。
頭が、割れそう。
(私、だったんだ)
仕事のせい、彼のせい、支配的な母のせい ・ ・ ・
そうやって、周りのせいにしていた。
大きな大きな、過ちだった。
そのまんまを受け入れるでなく、私の価値観で人を変えようとしていた。
何て身勝手で、傲慢で、逆らったことだろう。
大きな大きな過ちを犯していた。
私、だったんだ。
そんな私自身が、私を病気にさせたんだ。
他の何でもない、私だったんだ。
目が、覚めたような感覚になった。
腑に、落ちた。
自分のこの感覚に、強い確信が持てた。
この時私に起こっていたことが何なのか、一年以上たった今もわからない。
わかっているのは、この日を境に、私の意識が大きく変わったということ。
病気に対して。
過去の私に対して。
他人に対して。
そして今の私へと、つながる。