何度か母に、連絡していた。
旅を少し延ばすことを伝えるためだが、なかなかタイミングが合わなかった。
元の帰国予定の前日である今日、やっとつながった。
あ、お母ちゃん。 haluだけど。
明日帰るんだったけど、もう一週間こっちにおることにしたから。
うちゃあ、あんたがそろそろ帰ると思うて、今日布団干したんで。
こっちはええ天気でなぁ。
ほんなら明日帰らんのん?
うん。来週よ。 布団ありがと。 でも、ごめんな。
気を付けとってな。
はいはい。
よぉ聞こえんけど、切るで。
プーッ。 プーッ。 プーッ。 プーッ。 。 。
え?ホンマに切ったし。
私はあっけにとられた。
あっけにとられるって、こういうことか。
声が元気で、ひょうひょうとしてて、何となく受け入れてくれたようだ。
布団、干しててくれたなんて ・ ・ ・
続けて職場の婦長にも連絡した。
なかなか退職の決心がつかなかったことや、
決心できても伝えることに躊躇していた意味がわかった今、早く伝えたいからだ。
緊張はしたが、伝えられた。
一瞬だけ婦長の呼吸が乱れたのを感じたが、私の退職の意思に理解を示したうえで、
事務長と連絡を取って話し合いに来るよう言われた。
あなたの意思は、先に伝えておくから、とも。
母への連絡も婦長へのそれも、私にしてみればかなりエネルギーのいることだった。
そしてどちらも、あっけなかった。
ソウルメイトに、haluちゃんのチケット変更の連絡をしてもらってたんだけど、
もう明日のことだし、出来るかわからないみたい。
出来たとしても、お金が結構かかるって言われたようなんだけど、
以前は出来たしお金もいらなかったのに。。。
私が電話のことを伝える間なく、女性(グル)は言った。
そうだった。
そもそも、それがまだだった。
今の電話じゃどうにも出来ないけど、明日直接チェンナイの空港に行って手続きすれば、
変更出来るんじゃないかって。 まぁ当日やから、お金かかるのは仕方ないみたい。
お手数かけてすみません。
大丈夫とは思うけど、万が一変更できなかった時のために、
荷物をまとめて持って行っときましょう。
そのまま帰国になっても構わないようにね。
私は英語ができないことや、インド人のソウルメイトが空港で話をしたほうがスムースだということで、
女性(グル)とそのソウルメイトが同行してくれるという。
チェンナイまで片道3~4時間。
私は2人に甘えることしかできず、あまりに申し訳なくもあり、あまりに有り難くもあった。
いつもの夜を過ごしていた。
いつものように、スタッフが食事を用意してくれ、何気ない会話をしていた。
halu、本当に日本に帰るの?
スタッフが口を開いた。
どうかなぁ。
思わず私は女性(グル)に目を向けると、
わからないけど、大丈夫なんじゃない?
まぁ、荷物は持って行ってね。
そう言いながらそのまま帰ることになってもおもろいけど。
そう、、ですね。
考えても仕方ないし、もう天にお任せするしかないですね。
内心、この流れで帰ってしまうことはないんじゃないかと思っていた。
その反面、そう思ってるなら逆に帰らされることもあるかも、とか、考えてもいた。
お任せとか言いつつ、やはり考えていた。
全くいつもと同じ夜を過ごし、別れかもしれない挨拶もせぬまま私はホテルへ戻った。
荷物をまとめながらも、なぜかこの旅を振り返って思い出に浸るような気にはなれなかった。
早朝6時を少しまわり、タクシーはチェンナイを目指す。
残るスタッフには、さよならでもまたねでもなく、あとでねと声をかけてきた。
女性(グル)は、ソウルメイトがなかなか起きず、予定の時間を過ぎての出発となったことで、
説教を奮発していた。
私のことで早起きをするはめになり、時間通りに起きられなかったとはいえ、
説教されているソウルメイトに申し訳なく感じた。
でも女性(グル)は、マナーとしての時間の認識を、インド人であるソウルメイトに伝えたいようだった。
おおらかなインド時間ではすまされないことがあるからだ。
午前10時前、チェンナイ空港に着いた。
10日前に日本からここに着いた時同様、
人、ひと、ヒトでごったがえしている。
ソウルメイトは、すぐさま目的の窓口を見つけ、事情を伝えた。
やや時間のかかった後、神妙な顔で私たちの元に戻った。
halu、ここでは出来ないようだ。
ここから車で30分の、センターに行く必要があるらしい。
時間がぎりぎりだ。お金は8千ルピー(約1万6千円)ほどだそうだ。急ごう。
もし変更できなければ、もとの予定では私の帰国便は午後1時過ぎ。
2時間前の午前11時過ぎにはまたここに戻らないといけない。
あまりにもきわどい時間だ。
それに変更できたとしても、その金額は結構痛い。
一瞬、このまま帰国もありかも、という考えがよぎった。
が、すぐさまその考えは消えた。
やっぱり、もう少しここにいたいから。
あわただしくタクシーに戻り、センターに急いだ。
気持ちは急ぐのに、チェンナイの街は、混んでいた。
この想定外の流れでは、考えが及ばない。
ただ眺めるしかなかった。
もう、任せるのみだった。
センターは、街の喧騒とは違い、落ち着いた空気が漂っていた。
私も、このよくわからない流れであきらめがつき、落ち着いていた。
受付では女性(グル)のソウルメイトが交渉してくれている。
思考の不要となった私は、女性(グル)と共に、人間ウオッチ。
インド人女性も普通に手提げバック使うんですね。
足元はつっかけで、服はサリーで、不思議な景色。
ホントやね。 服以外はサザエさんの買い物姿やね。
あまりに平和な会話をしているところにソウルメイトが戻ってきた。
すぐ出ようという。
え? 結局どうなったんだろう。
センターを出ると、ソウルメイトは新しいチケットを手渡してくれた。
良かったねhaluちゃん。 出来たんやね。
あ~。 。 そっちですか。
良かったぁ。
で、お金は立て替えてもらってるんですか?
いらなかったみたいよ。
へ?
タクシーに乗り込みながら、女性(グル)は愉快そうに微笑む。
私は、この状況にまたあっけにとられていた。
・ ・ 何か、すごいですね。
結局うまくいって、お金もいらずで。
ややこしくなっていったから、どうなるんだろうって思ってて。
でも、だからこそもう何も考えられなくって。
どうなってもいいやって、いい意味であきらめがついてたんです。
何か、不思議ですね。
そう?
女性(グル)は、あっけにとられた後、高揚している私とは逆に、妙に落ち着いている。
少しの静寂ののち、女性(グル)が口を開いた。
天使たちがhaluちゃんに伝えにきてるわ。
今のこの感覚を忘れないでって。
身をゆだねていくことで、スムーズに必要なように流れていくんです。
そのことを、身を持って経験させてもらえたようですね。
だから、この今の感覚を、絶対に覚えていてねって。
身を、ゆだねる。
今の、感覚。
私が今味わっている感覚は、これまでにあっただろうか。
もしもあったとしても、遠い遠い、昔の事。
身を、ゆだねる。
私は何でも自分で考えて自分でしてきた。
と、思っていた。
そうじゃないといけないと思っていた。
よく考えれば、及ぶ。 とも思っていた。
身を、ゆだねる。
ゆだねる。
私になかったこの言葉。
ゆだねる。
私の中で、こだまする。
どこに、着地しようかと。