南インドのごく小さな町ティルバナマナイでは、ゆっくりとした時間が流れていた。
日本で時計を確認しながらの生活をしていたことが、懐かしくも感じられてくる。
もちろん時計はあるが、あまり出番がない。
さしずめ、日本ではお醤油だが、こちらでは一味唐辛子といったところか。 (説明は、割愛でw)
時間で動くというより、流れで動くということかもしれない。
頼りは、空腹とお日様。
とても原始的で、本能的で、本来的だ。
今日もお天気だし、彼(ソウルメイト)のもう一つのショップでも見に行かれたらいいですよ。
スタッフが掃除に行くから、バイクで2人でね。
ここのショップのようにいろいろグッズもあるし、近くにバリ風のとても素敵なホテルがあるから、
そこで一緒にチャイでも飲んで来られるといいですね。
スタッフにも、たまには休憩してもらいたいし。
なんでもソウルメイトには、家族と共同経営のショップが4店あって、そのうちの1店が近くにあるという。
今はクローズしているが、時々掃除やグッズの手入れに行っているようだ。
ここでは、基本的に仕事を休むということがない。
毎日、当たり前に店にたち、わずかなお客様があろうとなかろうと、同じように日々を繰り返す。
どんな日も、浮足立たず、卑屈にもならず、ただ自然に同じ毎日を受け入れている。
日本人の私は、さも当然のように、
「次の休みは少し遠出をしてリフレッシュー」 とか、
週末の仕事の後に友人と飲みに行って、愚痴とガールズトークをおつまみに、
「今週もよく頑張ったー、後はカラオケで発散して明日はゆっくり寝て、来週に臨もう!」
・ ・ ・
繰り返される同じ毎日を、半分あきらめと覚悟で、
それでもなるべく前向きに受け止めなきゃーという、実はマイナスな捉え方に酔い。
過ぎていく時間を惑いと焦りで見送り、
まだ見ぬ時間さえ、歓迎より横柄な不安で迎える。
日本人の、と括ってしまうのは私の甚だ偏見ではあろうが、きっと多くがこれに近いのではないか。
同じ毎日という ”同じ” が、こうも違うカラーとなるものかと、このところ漠然と感じていた。
halu-- ! Let's go ! !
ショップスタッフがニコニコと声をかけてきた。
まだ成人前の、あどけなさの残るキラキラの笑顔に一瞬ドキッとしたが、
モグラたたきの勢いで、その芽を反射的に叩けた自分にホッとした。
ショップに着くと、スタッフは慣れた手つきで掃除をはじめた。
着く前には、「とてもひどい状態だから、しっかり手伝って!」
ってさんざん言ってたのに、とてもきれいに保たれてるし、全く手伝わせてくれない。
こういうの、心がほころぶ。
バリ風のホテルは、全くこの土地の景色を感じさせないリゾート仕様のものだった。
きれいに整備された庭の小道を抜けるとプールがあり、
そのプールサイドには、南国の木々やパラソルやデッキチェア。
つまり、イメージ通りの南国リゾートが用意されていた。
女性(グル)に借りていたデジカメで、まるでカップルのように写真を何枚も撮りまくり、
レストランでチャイをした。
たったこれだけのことが、スタッフにとっては、きっと年に数回あるかないかの、
いや、もしかするともっと少ない頻度の休憩だろう。
ここは、そういうところだ。
往路とは別の小道から戻っていると、道の脇に一人の男性が座っている。
目の前にカードのようなものを並べ、横の籠の中には鳥がいる。
halu、やってみなよ。 簡単な占いだよ。
あまり気のりしないが、インドで占いもネタにはなる。
指示通りカードを一枚引くと、男性は少し目を大きく見開いた。
そして籠を開けると、中の鳥が慣れた動きで一枚のカードを口ばしでくわえた。
男性がそれを受け取ると、鳥はあっさりと籠に戻った。
なんだこのスマートな連携プレイ。
メジャーリーグのゲッツーでも、このスマートさにはかなわないだろう。 (はい。言い過ぎです)
男性は、私と鳥が選んだ二枚のカードをしばし眺めた後、深呼吸して口を開いた。
この二枚は、同じような意味を持つものです。
アルナチャラ、つまり神のカードです。
あなたはとても幸運な人だ。
早口な現地の言葉を、スタッフがわかりやすい英語に訳して伝えてくれた。
あなたは来月から運気が変わり、この先7年間、とても幸せに過ごせるでしょう。
家庭も、仕事も、友人とも、うまくいきます。
そしてそれは、あなただけではなくあなたの周りの人、
つまり家族や友人たちも、同様にうまくいくでしょう。
あなたのラッキーストーンは、エメラルドとルビー、それにアメジストです。
あなたは本当に幸運な人だ。
あまりのいい内容に、あの鳥の慣れた様子が怪しくも感じていたのだが、
伝えてくれるスタッフがとても嬉しげだったことで、私の疑心もすぐに消えた。
それにしても、自分のことのように喜ぶスタッフの姿に、
疑心を持った自分が恥ずかしく、また、心が洗われる思いだった。
女性(グル)の待ついつものショップへ戻り、どう過ごしてきたかを伝える。
デジカメの写真に、
なにこのなんちゃってカップルな感じは~w
スタッフ、楽しかったんやね。良かった。
母のような眼差しで、液晶画面を見つめる女性(グル)。
もし女性(グル)の計らいがなければ、彼のこの画面の笑顔は、いつになったことだろう。
halu、あれ言った?
スタッフのこのパスを受け、私は占いのことを伝えた。
へ~、すご~い。 良かったねえ。
っていうか、そのラッキーストーン、すでに手に入ってるし。 すごいわ。
そうなんですよ。 ポンディチェリでエメラルドとルビーをゲットしてますもんね。
めっちゃびっくりです。
ふふっ。 見せてもらってるなぁ。
女性(グル)の含んだ笑みの意味は、この時の私にはわからなかった。
女性(グル)は続けた。
haluちゃんにはアメジストも本当にあるといいよ。 クリスタルもね。
理想はそこに、チャクラに対応した石もあるとさらにいいんやけどね。
haluー、今度インドにお母さんと来なよ。
スタッフの急な言葉に、
あぁそうやわ。 haluちゃんまた来たい言うとったやん。 そうしはったら?
な、なんですかこの突然な会話の流れ。
確かにまた来たいけど、何で母と?
だってhalu、家族も幸せになるって言われたんでしょ。
インドに一緒に来たら、よりそうなるよ。
いつから聞いていたのか、女性(グル)のソウルメイトも後押ししてきた。
私は、きっとこの時は、聞き流そうと思ったはず。
旅行に行けば、必ずトラブルとなる私と母だから。
なぜ、聞き流せなかったんだろう。
この時の会話が、現実になると知らなかったのは、きっと私だけだった。