カップリングは岡●准一さん×蒼●優ちゃんです。
平気な方はドウゾー。
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side:J
「みょうが!」
彼女の口から突然放たれた言葉を日本語として聞き取れなかったのは、それが食べ物の名称だという認識が欠けていたからだろう。
「みょうが、買い忘れちゃった。買ってくるから待ってて!」
「ちょ、それってないとダメなの?」
走り去ろうとする彼女をあわてて引き止める。
手にはたったいま買い込んだ食材がぎっしり詰まったスーパーのビニール袋。
外は雨。出口でビニール傘を差そうとした矢先のことだ。
「ないとダメなの!」
そういい残すと、次の言葉を待たずに彼女は駆け出していった。あっという間に野菜売り場に消えていく後姿にあきらめにも似たため息をつく。
指に食い込む重い荷物。暗い空に降り続ける雨。ついでに空腹なのだ。
それでも、それは料理好きの彼女には妥協できない食材なのだろう。
「みょうが・・・ みょうがねえ・・・」
仕事をしていた母親が忙しい合間を縫って作ってくれた食事のメニューに、そんな名前の食材はお目見えしたことはなかったような気がする。果たしてそれがどんな味がするのかも知らないような気がする。でも、それが今夜食べられるんだろうなあと漠然と考えた。
やがて、息を切らせて駆けてきた彼女の手には小サイズのスーパーの袋。
その場でみょうがの正体を確かめたい衝動に駆られつつも、さっさと歩き出す彼女を足止めするほどのことではないだろうと思い直す。彼女の手で揺れるスーパーの袋を見ながら半歩遅れて歩き始めた。
出口で一本きりの傘を差す。暗い空からは相変わらず大きな雨粒が降っている。雨の中に踏み出すと、傘を持つ手に彼女の空いたほうの手が添えられた。
side:Y
お気に入りのル・クルーゼの鍋にざくざくに切った水菜を入れて、キッチンタイマーをかける。
「あ、今日はタイマーいらないか・・」
ひとりのときは、キッチンタイマーをかけてすぐにホン読みに入る。
いつものくせだ。
タイマーをオフにして、リビングをそっと伺うと、彼はパソコンの画面に見入っていた。何か知らないけれど、真剣に調べ物をしているようなのでそっとしておく。
お腹をすかせているはずなので、今日は手早くできる料理ばかりにしたつもりだ。
いりこを乾煎りしてすり鉢でよーく擂ったものを濃い目の出汁にあわせ、お味噌を焼いていると「いい匂いがする」と言って彼が覗きに来た。
なぜかみょうがをまじまじと見つめて感心していたけどなんだったんだろう。
そういえば、スーパーでもやけに漬物に興味を示していた。もしかしたらみょうがの漬物が食べたかったのかな。やっぱり今度は糠床にも挑戦してみようかな。
なんて考えていると、あっというまに鍋が煮立っていた。だからこの鍋は大好きだ。おかげで全サイズ揃いそうなくらい買い込んでしまっている。オレンジ色の蓋を開けると白い蒸気と一緒にいい香りがした。
「できたよー!」
リビングに声をかけると、空になったおつまみの皿を持った彼が顔を覗かせた。
艶やかな白いごはんをよそって、簡単にあえたサラダと一緒にお盆ごと手渡す。鍋つかみを嵌めた手で黄色いル・クルーゼをテーブルに運ぶと、彼が子供のように拍手をする。
「今日は何?」
「豚ばら肉とインゲンのさっぱり煮」
「さっぱり煮?あ!ゆで卵も入ってる!」
「お酢で煮込んであるからさっぱり煮なんだよ」
さっそく箸を手にしている彼を横目に、今度はオレンジの鍋からお味噌汁をよそう。
みょうがの香りがたまらない。卵でとじたからお味噌は少しだけ濃い目だ。お味噌汁を渡すと、香りをかいで彼が少し不思議そうな顔をしたような気がした。
「みょうが、入ってるよ」
そう言ったときにはもう彼の口にお椀が運ばれていた。
「あー!これ!!!」
「な、何?」
一口飲んで「この味!この味知っとる!」となにやら連呼している彼を横目に、美味しそうな湯気を立てている味噌汁を啜った。
いい味だ。やっぱりみょうがはかかせないなあ。
刻んだみょうがの残りはさっき仕込んでおいた冷汁に入れた。
明日は朝から暑くなるだろうから、彼もきっと喜んでくれるはず。
終
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冬コミ合わせの岡●准一×蒼●優本に書かせていただいたSSなのですが、発行主様に了解を得てupいたしました。タイトルからわかるように角田光代著「彼女のこんだて帖」を参考に書いたお話です。
わかる人にはわかるでしょうが、このネタ元は某紙金曜日の記事でございますww