木・石・神
石は巒峯にあっては
重々しく鎮まる手力男の神となり
渓流にあっては
雄々しく戦うケンタウルスとなる
春の河原にあっては
真澄(ますみ)の水を掬う佐保姫となり
苑池にあっては
黙々と並ぶ羅漢となる
路傍の石に至っては
衆生そのもの やがては
同じ縁の無縁仏となる
木は
湖面にあっては
細波(さざなみ)におどる妖精(ニンフ)となり
旧街道にあっては
天地を分つアトラスとなる
秋の深山(みやま)にあっては
錦繡を手織る織姫となり
ジャングルにあっては
常夜(とこよ)の国のヨモツシコメとなる
オアシスに茂る樹に至っては
生命の根源そのもの
大地母神の魔杖となる
(1971年)