今回紹介するのが、私からの最後の問い合わせメールの要旨です。

 

私からの問い合わせ ③

前回頂いた回答にあったような根拠でこのno more than one dollarを「わずか1ドル」と解釈するのは、以下のような理由で無理である。

 

①シエラレオネの現実と話が合わなくなる。

ある国の貧しさを示す経済指標の一つとして、1日1ドル(または1.25ドル)未満(あるいは以下)で暮らす人の割合が使われる。インターネットで検索すると、シエラレオネの場合は、60%とか70%といった数字が見つかる。つまり教科書の文は「60%が1ドル以下で暮らす」と意味を取れば、これらの統計データと合致するが、「60%がわずか1ドルで暮らす」では、実際の経済統計と合わない。もし英文の解釈が「わずか1ドル」で間違いないのなら、今度は数字自体が間違っていることになる。

 

②1ドル以下の数字は想定されている。

常識的には、どこの国でも貧富の差は付きものである。シエラレオネにも1日1ドルを大きく超える金額で暮らす人もいれば、それよりかなり少ない金額で暮らす人もいるはずである。①で紹介した貧困を示す尺度は、ある程度ばらつきのある国民の所得を1日1ドル(または1.25ドル)というラインで線引きをして、それ以下で暮らす最貧困層が人口に占める割合から国の貧困度を見る、というものである。

 

…他にも『英語語法大辞典第4集』の1079ページにある、no more thanをネイティブがいかに解釈するかに関する記述を引用したりしたのですが、スペースの都合で割愛します。

 

メールの最後に、

「次の質問にYES / NOだけでいいから答えてほしい」

と書きました。

 

1.「わずか1ドル」と訳すことで、教科書の記述が現実の統計と矛盾することになるが、それでも訳が正しいと言えるか?また、数字の出所は明らかなのか。

2.「わずか1ドル」という解釈、つまり言い換え表現としてonly one dollarを支持する母語話者がいるか?

 

…その後、「頂いたご意見は、今後の教材作成に生かします」みたいな返信は来ましたが、質問に対する回答はありませんでした。まあ、和訳を直すか、本文を直すかの二択を迫ったことになるので、答えられなかったのはある程度は理解できます。

 

もうこの教科書は廃刊になったこと、教科書の記述に関して長いメッセージをやり取りしたのは初めてだったこともあって、備忘録代わりに記事にしましたが、第三者が読んでわかりやすい内容だったか自信がありません。

 

『noは差がゼロで、no more than=only』

 

という牙城は崩せませんでしたが、今後もできる範囲で抗いたいと思います。

 

おしまい