まず、基本事項の確認です。

人称代名詞の使い分けを、多くの日本の学校では、

 主 格 (私は) = I
 所有格 (私の) = my
 目的格 (私を、私に) = me

のように、まず意味の違いとして教えます。

しばらくすると、with meとかfor meのように前置詞の目的語になるパターンが出てきます。この場合は、上記の訳は使えないので
 
「前置詞の後には目的格を置く」
 
と教え、前置詞とセットの意味のカタマリとして覚えさせます。

普通はこれで問題なく先に進めるので、その後改めてmeの意味を考えたりはしないように思います。

しかし厳密に言うと、Iは「私は」、meは「私を、私に」という意味だ、という説明は正しくありません。

Iもmeも、「意味は?」と問われればあくまで「私」です。なぜかというと「...は」とか「...に」の部分は、英語では「語順」が決めることだからです。例えば

“Ted loves Mary.”は「テッドメアリー愛している。」

と訳しますが、Tedに「テッド」、Maryに「メアリー」という意味がある訳ではありません。動詞の前は「主語」、後ろは「目的語」という英語の大原則に従って「トム(は)、愛している、メアリー(を)」というように「は、を」を補って和訳しているに過ぎないわけです。

現代の英語では語順が格を決めます。ですから、格変化は昔の名残として残っており、正しく使うことを要求されますが、

“I love him.”と言うところを

“Me love he.”

と間違えても、「彼が私を好きだ。」という意味に誤解されることはありません。

...しかも口語英語では、meに関しては主格に使うこともあります。例えば

“Me and my wife(girl, buddy, etc) went to Kyoto.”

「僕とカミさん(ガールフレンド、友達、等)は京都へ行った。」

のような例です。

ネイティヴに
 
「こういう風に、meを主語に使ってもOKか?」
 
と尋ねると普通は
 
「いや、使わない方が良い」
 
と言います。ただ、くだけた非標準の言い方であるにしても、普通に使われているのは事実です。

(そう言えば、Paul McCartneyもAnthologyのインタビューで、Me and my wife...と言っていました。)

ポイントは、meを主格に使うことが、日本語で「私は」の代わりに「私に」と言ってしまうような奇異な印象を与える間違いではない、ということです。理由は?
と言われれば、繰り返しになりますが
 
meの意味はあくまで「私」で、語順が「格」を決めるからです。
 
「Iは主格・meは目的格」
 
という規範からは外れますが、意思の疎通に支障をきたす訳ではありません。

...修行の進んだ人にとっては当たり前のことをくどくど書いた気もしますが、このあたりをきちんと整理することが、次回の話につながります。いわゆるネクサス(意味的SV関係)についてです。

追記:日本では、人称代名詞の格変化を表にして

「I、 MY、 ME! YOU、YOUR、YOU!HE、HIS、 HIM!」

と連呼して覚えさせることがありますよね?何年か前に、これをネイティブの英語教師の集団の前で実演したことがあるのですが、なぜか大笑いされました。「ホントにそんな事しているの?」と呆れ顔で質問する人もいたのですが、そんなに変でしょうか?このようにリストにして語句を覚えるというのは、動詞の不規則変化表もそうですが、ノンネイティヴにとってはいい方法だと思うんですが。

つづく