...暗く長いトンネルをやっと抜けて、久しぶりにまぶしい太陽の輝きを目にしたと思ったのもつかの間、次のトンネルが目の前に迫っているように感じている今日この頃です。

...前回、none the less for... という表現の不適切さについて述べましたが、この件について考えるようになったのは、ある本を読んだのがきっかけだったと思います。

タイトルは『使える英語へ-学校英語からの再出発』(研究社出版)、著者はケリー伊藤さんです。(テリー伊藤さんではありません。リーです。)

ケリーさんは一般向けの英語学習書を沢山書かれてますが、上記の本を含め、色々と学ばせてもらいました。特に、日本語を英訳する時に、言葉でなくideaを訳すことの大切さを教わりました。(ケリーさんはこれを、“Detach ideas form words”と表現しています。)

さて、この本の中でケリーさんは、英作文の問題集にあるおかしな英訳を取り上げて、それを正しく自然な英語に言い換えています。none the lessについては、次のような記述がありました。

まず、このような英訳問題と解答を示してあります。

「彼は非常に単純で子供っぽいけれども、やはり私は彼を尊敬する。」

“I respect him none the less for his childishness.”

次にこの英文に対するコメントが添えられています。

「母語として英語を使っている立場から言うと、今だかつて“~none the less for...”という表現を見たことも聞いたこともありません。none the lessなら副詞句として、neverthelessという意味で使うことはありますが、この英文のように前置詞句としてforと組み合わせてつかうことはありません...」

               (ただし、ケリーさん自身はネイティヴではないようです。)

そして次のような訂正例を挙げています。

1. For all his childishness, he is a great man.
2. I know he is so childish, but I still respect him.

ちなみに私が持っているのは、1995年10月1日の初版本で、もう15年近く前に刊行されたものです。にもかかわらず、現在でも売れ筋の参考書のほとんどで、このnone the less forが「重要表現」として当たり前のように取り上げられています。受験参考書におかしな表現があること自体はもう当たり前に感じるようになってしまいましたが、それにしても...です。

元をたどれば、「all the more for... があるのでnone the less for...もOKだろう。」

と、どこかの誰かが考えて作ったのかも知れません。しかし、日本語でも例えば

「アイツはただ者ではない」

とは言っても

「アイツはただ者だ」

とは言わないように、理屈よりも慣用が優先されるという言語の特質に対して、あまりにも無神経なのではないでしょうか?

おしまい