池波正太郎「忍びの旗」
最近は幕末を舞台にした作品より、織田信長、明智光秀、豊臣秀吉、徳川家康と天下を取る人々がころころと変わる、戦国時代を舞台にした作品を読むことが多くなったと思う。趣向の変化ではないけれど、一度、ある時代の話を読むと、なんとなくその時代が気になってしまうのだ。ただそれだけのことである。
今回の作品はタイトルが示すとおり、忍びの者が主人公である。この男、忍びであるにも関わらず、どこか妙に人間臭いのである。そこがまた好感が持てるところなのであるが。身分を偽ってある家中の武家の家来となって、その様子を探ることになるのだが、そこの娘と恋に落ち、結局子供までができてしまい、結婚することになるのだ。まぁ、今で言う、できちゃった婚。ところが、本気で相手の家族に好意を持ってしまうのである。忍びの頭領から、結婚相手の父親を討つように言われるのだが、それを無視して逆に命を助けてしまい、今度は我が身がかつての仲間であるはずの忍びに命を付け狙われることになる。しかも、命のある限りであるから、半端ではない。
さて、詳細はこれから読む人のために語らないでおくが、物語の展開が小気味良く、読んでてわずかな飽きもこないので、読んでて面白い作品であった。人には相応の身分、立場、役割というものがあるだろうが、何よりも大切なのは人としての思いであったり、気持ちであったりするのだろうと考えることができた。