『ほら。メシ』
『さんきゅー。お、何これ』
『ケーキの代わり。気分だけね』
こんな日に。バイトだし。へへ。気が効くじゃん
『じゃぁコーヒー淹れよ』
俺、ホットチョコ。わかってるって。備えつけの電気ポットのスイッチを入れる
『何か変わりある?』
『特にないよ』
ぱしっと小気味いい音を立てて、箸を割って。ん...
『ここ。何だ?』
え。いくつも並んだ小さなモニターのひとつを指差す。深夜だと。従業員もめったに通らない廊下に佇む、ひとりの男。しかも。ジャケットに...パンツ一枚
『閉めだされたんだな』
助けに行くか。クリスマスに災難だな。せっかく割った箸を置いて。ソファに放りなげていた、防寒用のジャンバーを手に取る
『ん?ちょっと待って』
よく見ると。その男は、周りをきょろきょろと見回しつつ。ドアを控えめに叩いている。声までは拾えない
『同伴者がいるのか...』
フロントに連絡する?そうだな。事件性はなさそうだけど。他の客に見つかったら面倒だし。連絡用のスマホを取りだすと。その男がふいに振りかえり、こちらを見た。驚いたように見開いた大きめ目と。ばっちり目線が合う
『わっ!』
向こうから見えてるはずもないのに。つい腰が引けてしまう。粗い画質なのに。造作の良さがよくわかる。監視カメラの存在に気づいたのか。申し訳なさそうに。口角を引き攣らせて。ぺこぺこと頭を下げた
『何か...いいひとっぽいな...』
な。ちょっと可哀想になってきた...あんな格好でも様になるほどの顔って反則だよな。お前が言うな
『やっぱり二人連れだって』
男ふたり。へぇ...顔を見合わせて。とんとんと。細い指でテーブルを叩く
『とりあえずメシ食うか』
それでもまだあのままだったら。声かけに行こう。そだな。ビニール袋からまだぬくもりのある弁当を出して。こちらに愛想の良い笑顔を見せては。ガチャガチャと慌てたようにドアノブを回す。その大きな背中を縮こませる様を眺めた
《こんな話しでまじみあねー》