『お前。ほんとむかつくな』
なまっちろい顔してよ。仕方ないだろ。生まれつきなんだから。きっかけは何だったっけな...そうだ。こいつが好きな子と、仲良くしてるって。ヌナ同士が知り合いだから。挨拶くらいはするってだけなんだけど。それからたまに絡まれる。逃げようと思えば逃げられるんだ。本気で走れば振り切れる。でも...こいつらと縁が切れるわけじゃない
『何とかいえよ』
って...顎をぐいっとつかまれて。そんなんされたら、話すに話せない。あぁ...めんどうだな...
『そこで何してる!』
え...地に響くような、怒りを含んだ低い声。肩越しに、眉をひそめたイケメンが見えた
『関係ないやつはひっこんでな』
関係なくない。きっぱりと。は...?俺も思わず顔を見る。うん。知らない
『見てしまった以上。知らないことにはできない』
腕組みをして。う、うーん。わかるようなわかんないような...ちっ...俺から手を離して。そのイケメンに向きなおる
『ケガしたくなきゃさっさと消えな』
それはこっちのセリフだ。何を!とびかかった雑魚が。一瞬のうちに地面に転がる。な...
『てめぇ!』
う...身構えたイケメンから、ただならぬ威圧オーラが発せられる。ゆらゆらと、目に見えるような。文字通り。手も足も出せないくらいの
『お、覚えてろ!』
お決まりのセリフを吐いて。そいつらは退散した
すごい...圧だけで追い払っちゃった...姿が見えなくなるまで。ずっと、睨みつけていたその肩から。ふっと、力が抜ける。何事もなかったかのように。圧が消え失せた
『あ、あの...え...』
背をむけた、ハーフパンツの裾から。ひょろりと顔をのぞかせた、縞模様の細い尻尾。くるりと振り向いた頭には、半円形の耳...
『と...』
叫びそうになって。あわてて口をふさぐ。だって、虎ってことは...肉食なわけで...やばぃやばぃ...
『え...』
きれいな二重の目が。まん丸に見開かれる。え...恐る恐る向けられた指先が、さし示したのは...
『あ...!』
俺も出ちゃった!だめなのに...あわてて両手でおさえるけど、長い耳は隠しきれない。どうしよう。おろおろとしていると。一歩。二歩と距離を詰められる。く、く、喰われる...ひぃ...ぎゅっと。目をつぶったとき
『かわぃ...』
え...ふわっとした感触に、目を開けると。にっこり微笑んで。俺の耳をなでていた。う...ふふ。やわらかいね。ん...何だろ...何かむずむずする。きゅ...危ない危ない。気持ちくて。うっかり獣体になるとこだった
『ケガはない?』
はぃ。大丈夫です。ありがとうございました。ぺこりと頭を下げると。長い耳が垂れ下がる。あぅ...ふふ...
『とりあえず、これ着てて』
俺の肩に、脱いだパーカーをかけると。すっぽりと。フードを頭にかぶせた。しっぽは...大丈夫か。俺のうしろをちょっと見て。うん。小さいから。ふふ、そうだよね。ちょっと待ってて。ぱさっと、着ていたシャツをめくると。なかなか鍛えられた、腹筋があらわれた。そこに、ベルトみたいにして器用にしっぽを巻く。そして、長めの髪を無造作にかきあげて。うまく耳をカモフラージュした
『ちかくに。獣人のひとがやってる、カフェがあるんだ』
落ちつくまで、そこにいよう。ん...ありがと...おいしいケーキもあるよ。ケーキ!ふふ。甘いのすきなんだね。あ...はしゃぎすぎたかな...はず...
『行こう』
当たり前のように。手をとられる。ん...肉食と手をつなぐなんて、はじめてかも...もちろん肉球なんてはなくて。かわりに、マメなのかな?すこし固いとこがあって。筋トレでもしてるんだろうか。腹筋も、腕もすごいし。さすが肉食
『また何かあったら、俺が守るからね』
さっきよりも。とろけるような笑顔で。どういう意味だろ...自分より。だいぶ高い体温に、ひっぱられるように。ふわふわと歩きながら。勝手に、耳がぴこぴこしてしまうのを。きづかれないように、フードの上からおさえた
※きのーの更新です