『直々のお出張り、ご苦労様にございます』
越前屋の主人が深々と頭を下げる。まだ若いが。しっかりしているようだ。店の周りも、ぐるっも見回ってみたが。表の入り口が壊されたくらいで。特に被害はないな。手がかりも...なしか...
『怪我人もいないんだな』
へぇ。有り難い事に...
『心当たり...って言っても、無意味だな』
これだけのお店だ。しばらく、気をつけた方がいい。へぇ。畏まりましてございます
『時に主人』
今回は、用心棒のお手柄だそうだが...左様でございまして...
『呼んだかぃ?』
奥から。見るからにむさ苦しい、毛むくじゃらの浪人が現れた。主人が。これはこれは先生、と。座を譲って、頭を下げる。此奴がその...
『取り逃がして、すまぬな』
どっかと胡座をかいて。一人くらい、捕まえておけば良かったのだが...何だ?おかしなことを言うな...
『いや。それは、我らのお役目故...』
ん?傍で。東海が。銀之丞の羽織の袖を、ちょいちょいと引っ張る
『何だ...』
小声で。あの...何処かで...は?毛むくじゃらの、浪人の顔を凝視する。髭に覆われていても。にっこりとしたその顔は。妙に愛嬌があって。それでも。眼光が鋭くて...
あ!東海が。目をまん丸く見開いて。その浪人を指差した
『崔原...始源!』
な...何ぃ!その浪人が。がっはっは...と笑い声を上げた
『よくわかったな』
催原の家とは、縁が切れた故...
『今は。御厩 始源だ』
ぼさぼさの髭を、大きな手で撫でた
《つづく》
※きのーの最終更新です