ドンへ side



ストリートピアノを、よく弾きに行く。ピアノはすきだけど。ピアノを買うお金も。習う余裕もなかったから。学校のピアノを弾いたり。こーして街角にあるピアノを弾いたり


知り合いに見つかると、またかわかわれそーだから。ちょっと離れたとこまで行く


レパートリーがそんなにあるわけじゃないけど。メジャーなクラシックとか。ドラマのOSTとか


通りすがりのひとたちが。立ちどまって、耳を傾けてくれるのもうれしーけど。ただ。その風景に溶けこんで。鳥のさえずりや。水のせせらぎ。風に揺れる木々。そーゆーのに、一体化してしまいそーな瞬間がすきだ


そのときだけ。よわい自分を忘れることができるから...


うた付きなのは、ついうたってしまうこともあって。ピアノの音を、邪魔しない程度に。口ずさんでくれるひともいるし


その日も。何曲か弾いて。拍手してくれたひとに頭を下げて...リュックを持って。歩きだしたところで


『ドンへ』


突然、名前を呼ばれて。びっくりしてきょろきょろしてたら。こっちだよ。え...


『やっぱり、イ・ドンへか』


ヒョクチェくん...ちょっと額に汗をにじませたヒョクチェくんが、歯茎全開で笑いながら立っていた



《つづく》



※本日のラインナップ