はらはらと涙をながす。演技かよ。今度はそんなふーには思えなかった。思わずその肩を抱きよせていた。泣くな...ひ...ひょく...ん...
背中をなでてやってたら、だんだん呼吸がおちついてきた
『俺ね...』
泣いたせーかさらに鼻声で。ぼそぼそと話しだす
『俺ね...演技するのすきだったんだ...』
実際の俺はダメダメだけど...いろんなひとになれるじゃん。いろんなとこができて。かっこいーひとも。おもしろいひとも。アクションだったり。せつない恋だったり。お医者さんだったり。宇宙飛行士だったり。どっか知らない国だったり
でもさ...
どんなに台本読みこんでも。研究しても。なかなか演技を評価してもらえなくて...良くても悪くても...結局、俺に求められるのは顔なんだ。セリフなんていらない。にこやかに歩いてるだけでいい。イ・ドンヘが必要なんじゃなくて。《イケメン》なら誰でもいーんだって...
そー思ったら、カメラの前に立てなくなって。もー用済みかな...事務所はただ黙って立ってる仕事でも、させたがったけど
気がついたら家を出てた。何も持たずに。家っていっても、事務所が持ってる寮みたいなことだったけど。久しぶりに街をぶらついて。そしたらさ。案外、みんな気づかないんだよ、俺に。あんなにきゃーきゃー騒がれてたのにさ
たまたま犬の耳のカチューシャ拾って。つけてみたら、ますますみんな避けてって。バラエティではけっこーウケたのに
あー。俺ってこんなもんかって。そんなもんかって...
もーいーやって思った。もーイ・ドンヘなんて、辞めてやれ
公園で。段ボール見つけて。このまま誰も相手にしてくれなかったら。もう終わりにしよう。もちろん誰も目を合わせてくれなくて...
そんなとき。ヒョクチェが気づいてくれた。立ち止まってくれた。振りかえってくれた。目を合わせてくれた。拾ってくれた...
俺...まだ気づいてもらえるんだ。ひととして。そー思った
《つづく》
※本日のラインナップ