ヒョクチェ side



ひとの波を器用にすりぬけて。まっすぐ俺にむかってくるつぶらな瞳


『こんにちは!あなたもこの学校だったんですね!』


あ...え...と...俺の戸惑いに気づいて。あっとまるくあけた口を片手でふさぐ。いちいちやることがかわいぃ


『すみません...覚えてませんよね...一回はなしたくらいじゃ...』


すっとまつ毛をふせる。いや...


『おぼえてる...おぼえてるよ。俺が店でピアノ弾いてるときに...話しかけてくれたよね』


ぱっと顔をかがやかせて。よかった!にっこりわらう口元がハートに見えるとか...俺...大丈夫か...


『最近、あのお店で見かけませんね』


あぁ...まだピアノを弾きに行ってるんだろうか...


『辞めたんだ。あの店のバイト』


そうなんですか?うん、二年になるし。課題も増えるし。集中したくてね。わぁ、すごい。俺だけじゃない。この学校にいるやつはみんなプロ志向だし。本気だ


『僕、付属の高校に進むつもりだったんですけど。どうしてもうたの勉強がしたくて。この学校を受けたんです』


へぇ。結局、この子のうたは聴けずじまいだったもんな...おなじ高校なら聴く機会なんていくらでもある


リョウク!おくれるよ!あ...いまいく!ともだちかな?とおくから呼ばれて


『じゃぁ...また...』


ぺこっとあたまを下げて。行きかけたところをふりかえる。わすれてました。ぺろっと舌をだして


『僕、キム・リョウクと言います』


あ...


『イ・ヒョクチェ。よろしく』


右手をさしだすと。ヒョクチェ先輩...よろしくおねがいします。そっとにぎりしめた。ちいさくて。ちょっとひんやりしてて。それなのに。ぽっとこころがあったかくなるようだった



《つづく》


※きのーの更新です