ドンへは朝はやく出ていったらしぃ。父さんが空港まで送っていって。母さんは泣いちゃいそうだからって一緒にはいかなかった。結局、家でも泣いてたけど
そろそろ時間かな…
昼からバイトに入った。けっこーヒマで。でもみんなとの会話にはいる気にもなれなくて。なんとなく試奏用のピアノの前にたつ
鍵盤に指をのせて。なつかしーな…
しばらく習っていたけど俺は外であそぶほーがたのしくて。ドンへもヒョンが一緒じゃないとつまんない、と結局辞めてしまった。習わせた母さんは残念がってたけど
母さんがすきでよくうたってくれたピノキオの『星に願いを』
それだけはいまでも弾ける。最初のほーだけ
記憶をさかのぼって、一音一音たしかめるよーに鍵盤をおさえる
うん…やっぱりこれくらいしかおぼえてないや…
鍵盤から指をはなすと、きこえてきたぱちぱちとゆー拍手
え…
ふりむくとあの子が立っていた
あ…
『あ、ごめんなさい。ヒョンがすきな曲だったんでつい…』
ヒョン…?
『ヒョンが…あ、本当の兄じゃなくて、仲良くしてもらってた先輩なんですけど…留学することになってしまって…』
ちょうど今ごろ飛行機にのってるころだと思うんですけど
『ここでピアノを弾きながらヒョンを待ってたことあるなぁっておもってたら、ヒョンがよく学校の音楽室で弾いてた曲が聴こえてきたんで…』
あ…すみません…俺、ヘタで…
『いえ…なんか似てたんです。ヒョンが弾くピアノの音に…』
だからひきよせられたのかな
え…
『そのヒョンには本当のヒョンがいて…あは、なんか紛らわしーですよね。ヒョンにはお兄さんがいて、そのお兄さんが弾くピアノがすごくすきだったってよくゆってました。すごくかっこよくてやさしくて…すてきなお兄さんだって』
あ…
『僕、なんかうらやましくて。お兄さんのこと、すごくすきなんですねってゆったら、うん。だから留学することにしたんだって…』
え…
『あ、ごめんなさい。僕、なんか変なはなししちゃいましたね』
あ…いや…
『おじゃましました』
あの日のよーにぴょこんっとあたまをさげると、はねるよーにあるいていった
その背中を見おくりながら…頬をつたうもの…
どうしよう、ドンへ…
俺…いまものすごくお前にあいたい…
《Somebody New 完》
※昨日の最終更新です