始雄 side
希美兄さんから《いつもの店にいる》と連絡があった。めずらしいな。最近は兄さんの家で飲むことが多かったから。圭美と洙利さんも一緒に
洙利さんとつきあいだしてから酒量が減ったみたいだけど、俺が着いたときにはだいぶできあがっていて
すわった途端、希美兄さんが飲んでるのとおなじものが出てくる。兄さんのボトルだから文句は言えない
勝手にグラスをかちん、とあわせて一気に空にする
『何があったんですか?』
なんにもねぇよ。おかわりを頼むから、バーテンダーにめくばせして薄めにつくってもらう
何もないわけないでしょ。あきらかに拗ねた顔で。だまって酒飲んで。俺よびだして
のらくらはぐらかすのを押して引いて聞きだしたら…
一緒に暮らすことを提案したら断られたと。首をふられて理由もきけなかったと
『何かしたんですか』
『何もしてねーよ!』
ん?何で赤くなる?酔いのせいだけでもなさそうな…ん?まさか…
『ほんとに…ほんとに何もしてないんですか…』
『うるせー』顔をそむける
図星か…
『教えてあげましょうか?よろこばせ方』
『お前な…』
いつからそんなゲスな言い方するようになったんだ…
希美兄さんに言われたくないですけど…
朝から晩まで仕事して。そのあと俺のメシまでつくってくれて。それ以上疲れさせるよーなことできねーだろ…
疲れさせるの前提なんですね…
それを癒すのが恋人の役目でしょ。抱きしめてあたまでもなでてあげればいいのに
そんなことしたら!
急に小さな声で。おそっちまうかもしれねーだろ…
いいじゃないですか。恋人なんだから。まったく、このひとは…高校生のころにでももどったつもりなんだろうか。ふたりともいいオトナなのに
『それなのに一緒に暮らそうなんて言ったんですか』
だってよ…
うちに来ても泊まってかねーし…朝早いってゆーからどーせなら一緒に暮らしたほーが楽なんじゃねーかって…うちのほーが店ちけーし
『あの…住み込みの家政婦雇うんじゃないんだから』
なんで好きだから。ずっと一緒にいたいからって言えないんですか
そんな…お前じゃあるめーし、そんな歯が浮きそーなこと言えるか!
『そこで意地張っても仕方ないでしょ』
歯が浮きそうなセリフなんて散々言ってきたくせに…洙利さんのこととなると途端に臆病になるんだから…ま、それだけ本気だってことか…
『素直にならなきゃ手に入るものもみすみす逃しますよ』
せっかく再会したのに…もったいないじゃないですか
わかってるよ…拗ねたようにグラスをカラカラとまわす
圭美から洙利さんにさぐりいれさせようかな。いつも希美兄さんには世話になってるし…たまにはふたりで恩返しするか
あとで圭美に電話してみよう
《しおの合いの手、いや愛の手》
※本日のラインナップ