少し前、ようやく乳腺の検査を受けることを決めました。
「女性の9人に1人が乳がんになる。」
そんな言葉を聞くたびに、怖くなっていました。
でも、その怖さを終わらせるには、検査を受けるしかないと思ったんです。
病院へ向かう途中、ふと気が付きました。
日焼け止めも塗っていない。
日傘も持っていない。
もちろん、化粧もしないまま家を出てきてしまいました。
検査のことばかり考えていて、いつもの準備を全部忘れていたんです。
その瞬間、頭の中に一つの言葉が浮かびました。
「来るかな。」
私は以前、暑さなどがきっかけでパニック発作のような症状が出たことがあります。
それからというもの、夏が少し怖くなりました。外に出る時は、日焼け止めに日傘、冷感タオルや冷却スプレーまで準備してから家を出ます。
でも、その日は何もありませんでした。しかも、一番暑いお昼の時間です。
暑い。
心臓が少し速くなる。
呼吸も浅くなる。
体はただ暑さを感じているだけなのに、頭は「危ない」と勘違いしてしまいます。
「逃げて。」
「何かしなきゃ。」
そんなふうに、体が私に命令を出します。
今まで何度も、その戦いに負けそうになったことがありました。
だから、その日もまた始まるのかなと思いました。
その時でした。
耳が目を覚ましたような気がしました。
蝉の声が聞こえました。
ずっと鳴いていたはずなのに。そういえば、こんなふうに蝉の声をゆっくり聞いたのは、何年ぶりだったでしょう。
暑さなんて気にしていないように、一生懸命鳴いていました。
その声を聞いているうちに、不思議と少しずつ落ち着いてきました。
子どもの頃も、夏は暑くて、汗をかいて、心臓も速く動いていました。それでも、蝉の声を聞きながら毎日暮していました。
そう、私も自然の中で生きている、生き物なんだ。蝉が今日を生きているなら、私もきっと大丈夫。
そんなことを考えていたら、いつの間にか怖さは消えていました。
家に帰ってから、2003年のドラマ『すいか』を見ました。蝉の声が聞こえる中で、みんなが西瓜を食べながら、ゆっくり夏を過ごしていました。
今年の夏は、少しだけ好きになれるかもしれません。