第1章:頑張れば普通になれると思っていた
私はずっと、「努力が足りないだけ」だと思って生きてきた。
ちゃんと集中すればできる。
ちゃんと考えれば分かる。
ちゃんと我慢すれば、みんなと同じになれる。
そう信じていた。
たとえば、人と会う予定がある日の前日。
私はベッドに横になりながら、頭の中で何度もシミュレーションをする。
「久しぶりって言われたら、なんて返す?」
「最近どう?って聞かれたら、どこまで話す?」
「沈黙になったら、何の話題を出す?」
スマホのメモに、会話の候補を書いたこともある。
・最近の天気
・相手の仕事の話
・ドラマの話
・当たり障りのない近況
ここまで準備しても、実際に会うと全部吹き飛ぶ。
相手が笑いながら言った一言の意味が分からなくて、
「え?」って頭が止まる。
その一瞬の沈黙で、相手の表情が少し変わる。
「あ、今の間、変だったな」
そう気づいた瞬間、心臓がドクンと鳴る。
何か言わなきゃ。
でも、何を言えばいいのか分からない。
結局、よく分からない相槌を打って、
家に帰ってから布団の中で後悔する。
「あの返し、変だったよね」
「なんであんな言い方したんだろう」
「普通の人なら、もっと自然に話せたはずなのに」
この反省会を、私は何年も繰り返してきた。
仕事でも同じだった。
新人の頃、私は常にメモ帳を持ち歩いていた。
上司の言葉を一言一句書き留めた。
「この書類はここ」
「この作業はこの順番」
「この人に確認」
なのに、次の日になると、
そのメモの意味が分からなくなる。
「これ、なんで書いたんだっけ?」
「この順番、合ってる?」
怖くて何度も確認する。
確認しすぎて、「さっきも言ったよね」と言われる。
でも、確認しないとミスする。
「ちゃんと聞いてた?」
「普通、分かるよね」
その「普通」が、私には分からなかった。
第2章:私は怠け者なんだと思っていた
できない自分を、私は「怠け者」だと思っていた。
朝起きるだけでしんどい日。
何もしていないのに、もう疲れている日。
「なんでこんなにだるいんだろう」
「みんな普通に働いてるのに」
そう思って、布団の中で自分を責めた。
SNSを見ると、
仕事もプライベートも充実している人たちが流れてくる。
私は何もできていない。
何も成し遂げていない。
「私はダメな人間だ」
そう思うのが、いつの間にか当たり前になっていた。
人と会った後は、必ずどっと疲れる。
家に帰ると、何もできなくなる。
「たった数時間話しただけなのに、なんでこんなに消耗するの?」
それでも私は、
「気合が足りないだけ」
「もっと頑張らなきゃ」
そう自分に言い聞かせていた。
第3章:「発達障害」という言葉に出会った
「発達障害」という言葉をちゃんと意識したのは、大人になってからだった。
何気なく見ていたネットの記事。
スクロールしている指が、ある見出しで止まった。
「大人の発達障害の特徴」
興味本位で開いたそのページに書かれていた内容が、
あまりにも自分すぎて、息が止まった。
・雑談が苦手
・空気が読めない
・集中力にムラがある
・疲れやすい
・感覚過敏
・忘れっぽい
「……私じゃん」
声に出して、そう呟いた。
でも、同時に怖くなった。
もし本当にそうだったら、
私は「努力不足」じゃなくて、
「最初から違う作り」だったことになる。
それって、
もう頑張っても普通になれない、ってことじゃない?
その夜、私はなかなか眠れなかった。
第4章:私が欲しかったのは、名前じゃなくて理由
私が欲しかったのは、「診断名」じゃなかった。
欲しかったのは、
「理由」だった。
なぜ私はこんなに疲れやすいのか。
なぜ私は人と同じようにできないのか。
なぜ私は、いつもズレてしまうのか。
それが知りたかった。
発達障害という言葉を知ってから、
私は自分の過去を、少しずつ別の視点で見られるようになった。
「サボってたわけじゃなかったのかも」
「怠けてたわけじゃなかったのかも」
そう思えた瞬間、
胸の奥がじんわり温かくなった。
第5章:日常は、今も相変わらず生きづらい
理解したからといって、
生きやすくなったわけじゃない。
私は今でも、
突然の電話が怖い。
スマホが鳴るだけで、心臓が跳ねる。
「誰?」
「何の用?」
「どう返せばいい?」
出る前に、頭の中がパニックになる。
人混みに行くと、音が一気に押し寄せてくる。
話し声、足音、アナウンス、カートの音。
全部が同じ音量で聞こえて、頭がぐちゃぐちゃになる。
帰宅すると、ぐったりして何もできない。
「今日は何もしてないのに」
そう思っても、体が動かない。
第6章:できないことが多い私にも、できることがある
私は忘れっぽい。
段取りが苦手。
人付き合いも得意じゃない。
でも、
一つのことを深く考えることはできる。
言葉のニュアンスに敏感で、
ちょっとした言い回しが気になる。
誰かの表情が曇ったのに気づくのも早い。
それは、今まで
「考えすぎ」
「気にしすぎ」
と言われてきた部分だった。
でも、それも私の一部なんだと思う。