ずっと
信じていたものがたりを
自らの意思で
終えるのは
ある意味、死を、
体験する、ことに
等しい
と、わたしは考える。
また、世間が
握りしめている
納まりのよい
万人に安心をもたらす
ものがたりから
はからずも
逸脱していくときも
同様だ。
万緑のころ
わたしは、いつも
死、に、捕らえらる。
死にたい、とか
死にたくない、とか
そういう感情が
湧いてくる、というのでは、無い。
ただ、ただ
生きているモノとして
生きるために
信じていた、
生きるために
固執していた、
生きるために
拠り所としていた
ものがたりを
一度、終わらすことで
死を、通過して
より、いまを生きたい
と、いう強い気持ち。
冊子木馬座暮らしに出てくる騎士ポッテングルー。
母の墓参りに行ったら
夏鶯が、鳴いていた。
山へ、響き
空を、渡っていく
その、こゑに
わたしも、鳴けたら良いのに
と、思った。
コトバを、
このように、紡げたら、と。
父に会うと
父の、いま、なお
うねりつづける
緻密で、
記録と記憶が反転した
おおきな物語と
わたしの、ぼやぼやした
過去も未来も無いような
茫洋で
この世ならぬ
ちいさな物語と
が、奇妙な空間を作る。
コトバがやりとりできない空間。
父は、飽きもせず
ジブンが、
生みの母を知らない理由を
たった3ヶ月の赤ん坊を
母親が置いて出た事情を
肉親に一度として、
はっきり聞かないのに、
わたしに問い続ける。
実は、父は、
ジブンのお気に入りの物語を
語っているだけ、なのだが
わたしは
もしかして
わたしが、知っているのか?
と、混乱する。
わたしが、
父を置いて出た、
名も知らない祖母の
ものがたりを語らなくては
ならないのか?
彼が深く納得し
魂が深く安堵するための
ものがたり、を。
わたしが、母となり
彼を愛すること、で。
そうなれば、父の飢えは
治まるか?
と、混乱する。
わたしは
神話などにある
怪物や神を鎮めるために
捧げられる、生贄のハナシが
嫌い、だ。
ちいさなころから
生贄に、誰か、を
村で、希求されれば
そういう境遇ならば
わたしが、出るのだろう、と
思っていた。
母が亡くなるすこしまえに
『もう、お父さんといたくない』
と、わたしに言い
でも、
『お父さんの面倒は、あなたが』
と言って
それから、亡くなって
いもうとが、
父と縁を切る、と
通夜の夜に、叫び、
わたしは、観念した。
そのための、人生、だったか、と。
思春期のある時期、
このままでは
死んでしまう
と、金髪の
こころ優しい男の子と
家を出たときは
まだ、希望が、あった。
オットー氏が
夫になってくれた時も。
わたしにとって
恋人とは、村から離れて、
異界へと、連れ出してくれるひと、だった。
が、もう、無い、と、感じた。
冷えとりをきっかけにして
なんとか、浮上し
いまは、父の飢えは
父のものなのだ、と
切り離して考えるようになったが、
きょうは
父が、
わたしに聞かせてきた
ものがたりを
娘というものが
語るべきだと思っている
ものがたりを
わたしが
終わらせてしまえば
わたしは一度死ねる
と、思った。
父は、今回
ジブンの年表を
わたしに見せた。
そこには
ジブンの祖父母から
父親から、
まみえたことの無い母から
亡くなった妻や、
わたしや妹や
孫である、わたしの娘たちが
彼の年齢を縦軸にしたものの
横軸に、存在していた。
どこに栄転した、とか
いつ、子会社の社長になった、とか
詳細に書かれてあり、
わたしの結婚や
娘を生んだ日
母の胃癌発覚、胃の摘出
母の、まだ、訪れていない法要の年まで
パソコンを使った
美しい表になっていた。
おそろしいね
と、わたしはわざと身震いして
こんなものに
人生を見てはいけないよ
と、言った。
が、確かに
わたしの人生が
そこに、在った。
父の娘に生まれて
学校に行き、結婚をして
娘を生んだ、と、いう。
外側の、人生が。
マントを付けてくださった。
ハナヅラ群の悪意を屠る矢を、すり抜ける
ハナヅラ群の悪意を屠る矢を、すり抜ける
ポッテングルーの、意思。
こうやって書いたけれど
父を書いたのでは、ない。
これは、わたしのものがたり。
終わらせる、ものがたりを
実家から、
わたしの家族が住む
家に向かう
半分行ったところの
駅のベンチに座って
書きました。
通過していく場所でしか
書けない、と、思って。
書いて
わたしはここへ
ものがたりを置いていこう、と。
家に帰れば
はちゃめちゃ編集部の
楽しい作業が、待っている。
さあて、ベンチから
立ち上がろう。
空想家sio