娘が剣道を辞めて一年以上が経つ。
でも、彼女は時折竹刀が握りたくなる病にかかる。
というか、彼女の中では辞めたというよりは、一時休止していて再開の時を待っているかの様な言動をとることがある。

去年の今頃もそうだった。
たまたまPTAの関係の会合に出向いたときに、同じ部会にスポ少時代の他所の道場の先生がいらっしゃった。
「そういえば、最近試合で見かけないけど?」
少なからず、娘の事を知っててもらったらしく、気にかけてくださった。
「実は辞めてしまいましてね。。それでも、彼女は機会があったらまたK先生の元でやりたい、なんて言うてるんですけどね」
娘が慕っていたK先生は、会話の相手の先生も懇意にしていた。
けど、突然先生に相談することも、結果的に一言の挨拶もなく辞めてしまったので、
その後悔(のようなもの)は私に言うくらいで、
親バカとしては、どこかでK先生に伝わればいいな、というずる賢い気持もあっての言葉だった。
「また機会があれば、いつでも再開できますよ。ぜひまたやって欲しいなあ。
K先生だって快く受け入れてくれますよ」

こんな話しをした、ということは娘に伝え、彼女も他所の先生が自分を知ってくれていた事にも感激していた。


彼女の進んだ学校はボウズの友人でもある中学の先輩が1人、
彼女の入学前までは剣道部に在籍していたものの、メンバーも不足し、その先輩も部活を退いていた。
幽霊部手前、のようなチームとはこの先輩のお母さんからも聞いていた。
入学当初から、バイトを始めたり、お絵描き教室に通ったりしながらも、
剣道をする方法を模索してのだろう、彼女はそんなチームながら何度か見学に足を運んでいたらしい。
現実的に、彼女の持っている時間から部活の時間を捻出することは厳しい。
バイトを減らすか辞めるか、しないとアカンやろなとは思う。
それでも、数回顧問の先生と話している中で、この顧問の先生がK先生知り合いということがわかったらしい。
彼女のK先生に対する気まずさもあり、そこはさりげなくスルーしていたぽいけど、
「なあなあ、オカン、うちの高校の剣道部の顧問、K先生の知り合いなんてーーー!」
・・・少し嬉しそうやった。

そんな彼女がココ数日、「バイトやめたいーーー」とごねている。
理由は
「部活がしたい」
我家の経済的な理由から、ちと難しいんですが…


そんな矢先。
一昨日の日曜。私は仕事先で昼食に何を食おうと真剣に食料を物色してた。
とりあえず、食料を確保し、支払いを済ませ、裏に戻ろうとした時に、
かつて見慣れたK先生の顔があった。
「こんにちはーーー。おひさしぶりです。お元気ですか?」
挨拶したら
「いゃぁ・・・みぃぃさん、さっきから何度もすれ違ってるんですよ。目が合ったと思ったけど、スルーされたから声かけにくくて」
てな主旨の事を言われた。
こちらは、何食うか真剣で、他に目がいってなかっただけなのですが…。
彼女の辞め方から、K先生もいろいろ妄想していた事があるのだろう、避けていると思われててもしゃあなかったんかもしれん。
いや、現実はK先生に何の落ち度もなく、娘が礼儀を欠いてただけなのですが。
「ところで、○○ちゃん(娘)はどうしてはるん?どこの高校通ってるん?」
ボウズもいたんやけど、そこは娘の事を気にかけてもらっていた。
私は、ただひたらすら、彼女の気持が伝えたくて
「もうね、ずっと再開したいとは言うてますよ。いずれまたK先生のもとでやりたい、ってのは口癖ですよー」
てなことを何度言うたでしょう。
「また、したくなったら来てくれたらいいんですよ」
彼女が話してた、顧問の先生の話しもした。
「あー何々先生!部活始めてくれるんかなあ?」
「いつでも来いって伝えておいてくださいね」
そんな言葉をあとにK先生と別れた。

娘にこの事を話すと
「社交辞令ちゃうん?私あんな辞め方してるんよ。そもそも顔も忘れられてるって」
・・そんなやつのオカンの顔も、彼女の名前も覚えてくれてる。
社交辞令なら「じゃこれからも頑張ってねー」くらいで自分の元に来いなんて言うてくれへんで。
ま、良い様にとりすぎーの、娘の言うように先生なりの社交辞令だったのかもしれないけど、
私には、彼女がそれほどまでにこだわる先生なのだから、きっとどこかで通じているものがあったんだろう、と思う。(思いたい)
それでも、彼女の事を気に留めていてくれた、というのが娘にはどこかこそばゆかったのだろう。
まんざらではない顔をして、何度となくその時の話しを聞こうとしている。
現実として、「そうですかー」とその先生の元に赴くことはナカナカ難しいだろうけど、
彼女の中で、剣道するしないではないもっと根っこの何かのきっかけになれば良いな、と思う。
親バカだろうけど、こういうのを経て再開したら、彼女は強くなるんちゃうんかなあ・・なんて思ってもみた。
すごく大事にするんじゃないのかなあ、と。

彼女自身がもう少し落ち着いたら、K先生の元で再開してほしいな、と思ってみたりもした。