コトノハノヲト 

コトノハノヲト 

神秘は
無口で
こちらを見ない

ときどき
物語だけを
残していきます

円音 / Tsuburane°
タロットと水晶
星あかりの刻に

読みかけの本が、 閉じたまま、そこにある


どこまで読んだか、 もう誰も覚えていない 


栞は挟まれていない


ページの角も折られていない


ただ、 閉じられた 


深夜になると、 文字が遠くなる


意味より先に


行間が広がって


行間より先に


沈黙が来る


読もうと思えば、 続きを追える


でも今夜は、 そこまで行かない


行かない


ではなく


行かなくていい


そういう夜だった


ページを開かない


それが、 こんなにも静かなことだと、 深夜は知っている


深夜だけが、 その静けさの重さを、 ちゃんと量れる


読まなかった行


触れなかった言葉


失われたのではない


ただ、 先送りにされたまま、 本の中で眠っている


閉じられた本は、 拒まれたわけではない  


また開かれるのを、 静かに待っている


急かさない


責めない 


本というものは、 だいたい、そういうふうにできている 

 

深夜は、 理解よりも、 距離を選ぶ時間


近づかないことで、 守られるものがある


読まないことで、 保たれる関係がある


今夜は、 読んだページより、 読まなかったページのほうが、 長く手のひらに残っている


文字ではなく、 紙の重さとして


意味ではなく、 沈黙の厚みとして


閉じたまま、 ここにある


それで関わっている


それで関われている 


誰かと本のあいだに、 深夜だけが知る距離がある





2026-01-07 

深夜の、手前で

Tsuburane°