Thank you, your life | 酔いどれ Little Engineer

Thank you, your life

先日、うちの実家の一員であった、犬、チャッピーさんが亡くなった。うちの実家は僕の住んでいる東京とはほど遠い奈良県。その一報は弟であるTMから受けた。享年14歳。ここ1年病気がたえず、体を弱くしていた。当然、最後の面会にも行くことはできず、もう会うことはできない。次回実家に帰っても、もうあのフローリングをのびた爪でカツカツと鳴らして歩く音は聞くことができなくなった。

僕と奴との出会いは、僕が小学2年生の最後のほう、3年生にあがるちょっと前のことであった。うちの姉が言い出した「犬を飼いたい」というダダがきっかけで、うちの母が昔飼っていたのと同じ犬種である「ミニチュアシュナウザー」が我が家の一員となった。名前も、母が昔飼っていたのと同じ「チャッピー」と名づけた。

幼い日のチャッピーは当時大阪は大正区にあったせまい家を、まさにところせましと駆け回っていた。しょっちゅうかまれたし、痛かったし、畳に小便をひっかけるわ、やんちゃであった。少し急な階段もせっせと登り、どたどたと駆け下りた。散歩とご飯は兄弟3人で分担した。(まあ、それぞれ忙しいときはほとんど母がやっていたが。)チャッピーは子供の男の子が苦手だった。それは僕と弟がいつもギャーギャー騒ぎうるさかったからである。安らげる場所は、やはり母だった。チャッピーは母が大好きだ。母帰宅の時には、一目散に玄関に向かう。この14年間見慣れた光景だった。

しかし、チャッピーは僕や弟のことが嫌いなわけではない。帰宅の時には、一応玄関にきて、「おっ、かえってきおった」みたいな感じで挨拶にくるし、真冬のコタツが恋しい時期には、コタツに足を突っ込んで勉強してる僕のひざの上に無理やり乗っかってきて、丸くなる。しばらくしたら、足がしびれてきてチャッピーをどかす。チャッピーはなかなかどこうとしない。無理やりひざの上からおろして、横の方に寝転がる。・・・そうそう、チャッピーはコタツが大好きだ。いつも頭から突っ込み、おしりと足がコタツの外にはみ出していた。あついだろうに、なかなかでてこない。

チャッピーは一度出産をした。3匹生まれる予定であったが、最初にでてくるはずの子が逆子となってしまい、残念なことになってしまったが、帝王切開の結果、2匹の子犬が生まれた。僕が「ポポ」「キキ」と名づけた。なぜかはわからないがそうなった。ポポ、キキの生まれた時の大きさは、当時の僕、小学4年生の手の平の大きさとほとんど同じだった。10センチちょっとくらいだろうか。かなり小さかった。チャッピーはとても母親らしくなった。誰に教わったでもなく、2匹の世話をちゃんとする。そのときのチャッピーはとてもかっこよく思えた。キキはまもなく母の親戚に譲ることになった。こうして、我が家からキキが去って、チャッポポの親子が残った。

ポポはとても変わった犬だった。飯をとにかく食う。チャッピーの分も横取りする。そして、チャッピーが取り戻そうとすると、怒る。母チャッピーに強かった反面、ポポはとても怖がりだ。雷や花火の音に怯えて、暗い部屋の片隅でぶるぶると震えていた。そして、ぷくぷくと太っていた。ポポは階段を登ることができても、下ることはできなかった。チャッピーが、食卓の椅子の上に、かるく飛び乗るのにくらべ、ポポは飛び乗ることができなかった。しかし、それはフェイントだった。ある夜、弟が牛乳を飲みにリビングに入り電気をつけると、晩御飯の残りものであった、おでんのなべをがつがつあさるポポがいた。そう、テーブルの上にのっかっていたのである。電気をつけられたときのポポの表情は、「あ、しまった!みられた!」って感じだった。と弟は語る。そのポポは、僕が高校2年生の冬に、お菓子の袋に頭をつっこんでしまって亡くなってしまった。らしいといえばらしいが、しっかり見てなかった自分を責めた。
ポポが亡くなった時のチャッピーは、本当にさびしそうに見えた。一生懸命にポポの体をなめていたその姿を見て泣いてしまった。

それから6年間、チャッピーだけになった。みんなチャッピーを大切にした。でも、これでさよなら。きっとあっちの世界で、ポポと再開して仲良くしているだろう。

母が運転する車に乗って、初めてチャッピーに会ったときのこと。
弟とチャッピーのうんこを蹴飛ばして遊んだときのこと。
散歩の途中で、弟がチャッピーに小便を引っ掛けたときのこと。
おもいっきり噛まれて血をいっぱい出して泣いたときのこと。
母の実家の島根まで車で一緒に行ったときのこと。
自分のおならにびっくりして、側溝にころげ落ちたときのこと。
なんでも食うのに、きゅうりだけはたべなかったこと。
お風呂に入れて嫌がって、お風呂から出たらダッシュで暴れまわってたときのこと。
ひざの上にのっかってきて、甘えてきたときのこと。
ポポが生まれたときのこと。
ポポが亡くなったときのこと。
大学生になって、たまにしか帰ってこない僕にいつも散歩をねだってきたこと。

・・・僕が子供から大人になるにかけて、大半の部分で一緒にいたチャッピー。楽しかったことや、痛かったことや、たくさんのことを教えてくれて、いろんな時間を共有して僕を成長させてくれた。いろんなことを学んだ。

さびしいけど、さよなら。
本当に、あいつに出会えてよかったと思う。
Thank you, your life