【ボカロ小説】わたしのアール【二次創作】 | 海月大和の覚え書き

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ニコニコ動画に投稿された和田たけあき(くらげP)様の楽曲『わたしのアール』を小説化してみました。
 

原曲様↓

 

1700字くらいと短いので5分くらいで読めると思います。

 

かなり悲しい内容なので読むときはその点にご注意ください。よろしくお願いします。

 

 

 

 

 

 

 

 その日、わたしはわたしの人生を終わりにしようと決めていた。
 ちゃんと死ねる高さの建物の屋上で靴を脱ぎかけた時、先客がいる、と気付いた。

 三つ編みの女の子。手すりの外側に立って、地面を見下ろしている。
 思わず声をかけてしまった。

 

「ねえ、やめなよ」

 

 口をついて出ただけで、ホントはどうでもよかった。
 先を越されるのが、なんとなく癪に感じたから言っただけ。
 三つ編みの子は語る。どっかで聞いたようなこと。

 どうしようもないくらい好きになった人に振り向いてもらえなくて、その人に愛されないなら生きてても仕方ないとしか思えないって。

 

「運命の人だったの。どうしても愛されたかったのに……」

 

 泣きながら話すその子に相槌を打ちながら、慰めの言葉をかけながら、私は胸の中で激しく毒づいた。

 

 ふざけんな!
 そんなことくらいでわたしの先を越そうだなんて!
 欲しいものが手に入らない?
 奪われたことすらないくせに!

 

「話したらちょっと楽になった。ありがとう」と言って、三つ編みの子は消えていった。

 

 なんだか死ぬ気が削がれてしまって、わたしもその日は飛び降りるのをやめて帰った。

 

 

 


 日を改め、さぁ、今日こそはと靴を脱ぎかけたら、また先客。

 背の低い女の子に私はまた声をかけてしまった。

 

「ねぇ、やめとけば?」

 

 なんで引き止めてるんだろうなって、自分でもやってることおかしいなって。

 そう思うけど、考える前に言っちゃったんだから仕方ない。

 背の低い子は語った。クラスでの孤独を。「無視されて、奪われて、居場所がないんだ」って。

 ふざけんな!そんなことくらいで!って思ったよ。言わなかったし、顔にも出さなかったけど。

 

「学校で居場所がないのは辛いよね。でも、うちでは愛されてるし、あたたかいごはんもあるんでしょ?」
「……」
「君の好きな食べ物はなに?」
「……ドーナツ」

 

「おなか、空いたなぁ」と呟いて、涙を拭った背の低い子は、「最後に食べたいもの食べてから死のうかな。とりあえず今日は飛ばないでおくよ」と言って消えてった。

 

 わたしも「今日じゃないな……」って気分になったから、飛ぶのはやめて家に帰った。

 

 

 


 そうやって、何人かに声をかけて。
 追い返して。
 わたし自身の痛みは誰にも言えないまま。

 そして、初めて見つけた。見つけてしまった。
 似たような悩みの子。
 何人目かに会った黄色いカーディガンの子。

 

「うちに帰るたびに増え続ける痣が嫌だから、嫌いで嫌いで仕方ないから、消し去ってしまうためにここに来たの」と彼女は言った。

 

 口をついて出ただけで、ホントはどうでもよかった。
 思ってもいないこと。
 でも、声をかけてしまった。

 

「ねぇ、やめてよ……」

 

 ああ、どうしよう。
 この子は止められない。
 わたしには止める資格が無い。
 だって分かっちゃうから。悲しくて空しくて、もう終わりにしたいその気持ちが。
 それでも、ここからは消えてよ。

 

「おねがいだから」

 

 彼女の瞳に映る、苦しそうに歪んだわたしの顔。

 

「そんな顔しないでよ……」

 

 その子は私から顔を逸らした。目を伏せて「じゃあ、今日はやめておくよ」って消えてった。

 

 

 


 今日こそは、誰もいない。
 わたしひとりだけ。
 誰にも邪魔されない。
 邪魔してはくれない。
 黄色いカーディガンを脱いで、三つ編みをほどいて、背の低いわたしは屋上の手すりを乗り越える。
 ずっと探してた。
 辛くたって悲しくたって空しくたって、それでも生きてられるような、まだ死ななくても大丈夫だって思えるような、わたしのRaison d'être(レゾンデートル)(存在理由)を。
 でも、もう限界。
 頑張ったんだよ? 必死に探したんだ。だけど見つけられなかった。
 愛されず、奪われて、居場所なんてどこにもない。
 だから、今から飛びます。

 

 

 

 目を閉じて、重力に身を預けようとしたわたしの耳に、そのとき、誰かの声が届いた……気がした。

 

「ねえ、やめなよ」