Hip Hopの精神 | Hip Hop X 教育 =

Hip Hop X 教育 =

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 ULTIMATE MC BATTLE、戦極MC BATTLE、高校生ラップ選手権など、近年のラップ・バトルの大会や番組が爆発的に若者の間で流行った結果、フリースタイル・ラップが日本の若者文化として定着しつつある。

 

 Hip Hop好きにとって嬉しい社会現象である一方で、昨年末、ラップをきっかけとした悲しい事故が起こってしまった。

 

 2019年12月19日、神奈川県川崎市内で、ラップバトルに負けた高校生が罰ゲームとして約5メートルの高さの橋から川に飛び込み死亡したのである。

https://www.sankei.com/affairs/news/191220/afr1912200007-n1.html

 

 本件において、生徒間でのいじめの関係性はないと報道されているが、筆者は、このラップ・ブームが沸き起こる数年前から、ラップバトルがいじめや何かしらの事件へ発展することを危惧していた。

 

 そのきっかけとなったのが、約10年前に勃発した、ラップ・アーティストSeeda※1OKI、そしてTeriyaki Boyz(Verbal※2)間でのラップ・バトル(ビーフ※3)である※4

 

<Teriyaki Beef / Seeda & OKI>

 

 このビーフの詳細は注釈を読んで頂きたいが、筆者が問題視した点はこの動画がyoutubeにアップロードされて以降瞬く間に視聴者数は増加し彼らプロの仕事をHip Hopの歴史や文化ないしはビーフにおける暗黙のルール※5を知らない若者が悪ふざけで真似をしだした事である。

 

 既にyoutube上では削除されているようだが、このビーフが話題となって以降、バイトの同僚をふざけたトーンでバカにする似非(えせ)ディス動画や、とりあえずTeriyaki Beefのような雰囲気で誰か(対象者不明)を嘲笑するような動画がアップロードされたのである。

 

 これらの悪質な動画を拝見して以降、筆者は、ようやく根付き始めた日本のHip Hopシーンを台無しにし、先駆者たちの汗と涙を冒涜するだけでなく、世間にラップHip Hop=若者に悪影響と誤解を与えてしまうことを強く感じたのである。

 

 同ビーフから間も無く、当事者のVerbalはビーフ相手のSeedaを自身のラジオ番組に招き、日本において、リスナーやHip Hopファン(ビギナー)たちが、ビーフをエンターテインメントとして捉えられるだけの土壌(文化)がまだ日本には根付いていない点を強調していた。

 上述した悪質な動画の例は、まさにVerbalが主張した通り、文化が根付いていない故の結果と言えるのではないだろうか。

 

 文部科学省による平成30年度の、小中高及び特別支援学校を対象としたいじめ調査によると、同年度の“認知された”いじめ件数は543,933件と、調査の1年前より約13万件も増加している。

 

 冒頭で述べた川崎の事故について、ラップ・アーティスト / Hip Hop活動家のZeebra氏は、自身のツイッターで、「Hip Hopの精神を伝え損ねた」と述べられていた。

 

 ラップ(Hip Hop)がいじめ増加の要因にならないことを祈るだけでなく、Hip Hopの精神平和(Peace)、(Love)、団結(Unity)、楽しむ(Having Fun)」(by KRS-ONE)が若者に浸透していくことを期待したい

 

※1:https://ameblo.jp/lit-hiphop/entry-12462229679.html

 

※2:Verbal(バーバル)とは、Lisa(ボーカル)、Taku(DJ)とグループを組む音楽ユニットの一員である一方、ファッション・デザイナーのNigo、RIP SLYMEのILMARIらから構成されるラップ・グループTeriyaki Boyzの一員でもある。

 

※3:ラップ・アーティス間でのバトルはBeef(ビーフ)と呼称される。これはフリースタイルのラップ・バトルではなく、アーティスト間の喧嘩や揉め事を発端とした、ラップ詞(リリック)を用いた特定の相手や団体への攻撃行為を指す。ビーフが勃発し、一旦相手からディス・ソングが発表されると、それに対してラップ・ソングで応酬する。この応酬ソングは「アンサーソング」(ディス・ソングへの受け答え)と呼ばれ、ビーフ当事者間でのラップのやり合いもHip Hop界の醍醐味なのである。

 

※4:筆者は個人的にビーフに目がなく、一度ビーフが勃発すると、その当事者たちのやり取りを細かくチェックしており、もちろんSeedaたちのビーフも色々な意味で日本のラップ史に名を残す名勝負だったと考えている。なぜ「色々な意味」と強調したかと言うと、同ディス・ソングへのVerbalのアンサーが、「Seedaをゲストとして自身のラジオ番組に招く」というものだったからである。

 当時、Verbalはポッド・キャスト上のラジオ番組でHip Hopをテーマとしたラジオ・パーソナリティーを務めており、同ビーフが勃発して間も無く、当事者のSeedaをゲストとして招き、Seedaの指摘に対して一つ一つ説明したうえ、ビーフが日本の文化的土壌に適しているかどうかという議論に展開させたのである。

 相手のディス・ソングに対し、このような対応をした事例は筆者の知る限りでは皆無であり、日本にHip Hop文化を浸透させることを目的としたラジオで、自らの体験を事例に、Hip Hopビギナーのリスナーに分かりやすくラップビーフの文化日本とアメリカのラップシーンの違いを解説した点は賞賛に値すると考えている。

 事の経緯を音源で聞いて頂くことが一番手っ取り早いのだが、ラジオ番組がネット上から削除されているため、限られた音源しか紹介できないが、以下が彼らのビーフに関する音源である。

Serious Japanese:事の発端となった曲

 この曲中で歌われている「おっと服に猿がついてる」(1分20秒目くらい)というフレーズが、②で紹介するSeedaの楽曲のサビ部分で歌われる「おっと服に枝がついてる」というフレーズを文字ったものとなる。

 

Sai Bai Men:Serious Japaneseで文字られた曲

 

Teriyaki Beef:上記参照

Seeda VS Verbal

 これは、上述したラジオ番組内最後に、SeedaがVerbalに対し、フリースタイルでバトルを仕掛けた音源を、Maru Marmello(マルマーメロ)というプロデューサーによってアレンジ加工された音源である。番組内でのラップはBGMなしで行われた。

 

※5:ここで言う暗黙のルールとは、「スポーツマンシップ」のような、ビーフをエンターテインメントの一種として捉え、相手(アーティスト)に対する敬意の念を持つようなもの。(個人的意見)

 

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