The Ruler, The Winner / 「The Ruler」レビュー | Slow Hunger

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ゴスペラーズを中心に、いろいろと

『The Ruler』について酒井氏は

「歌とラップとポエトリー・リーディングの中間をやりたかった。日本の伝統芸能にも、

 語っていると思ったらいつの間にか謡になっている、という手法がある」

ということを言っていました。


それを確かめるためにではありませんが、昨日、能楽堂で能を観てきました。

酒井氏の話を思い出したので意識して聴いていると、そうなんですよね。

ワキが重々しく語っているうちに、それに大鼓と小鼓が加わり、地謡が重なり、笛が鳴り、

あらいつの間にか節のついた謡(歌)になっているわ、と。(↑の用語の解説は記事の最後に)


そんな酒井氏の挑戦的な遊び心が実を結び、

超絶かっこいい曲に仕上がっちまった『The Ruler』。

同じくかっこよさにメロメロの『狂詩曲』は、

シングルのオマケとラジオ音源で聞いていたぶん慣れがありましたが、

こちらはCDで初聴きなので、CDから選んで聴く回数は今はこちらの方が多いです。


バックの基本は、上のシンセ、中間のギターとハンドクラップ(のような音)、

下のブーブー音。それがどれも間隔を空けて入ってくるから、

それぞれの音に存在感がある割には、声が前面にしっかり居座っているように見えます。


酒井・黒沢・村上で分け合ったサビですが、歌い方と詞の違いによって

それぞれ挑発の仕方に個性が出てきて面白い。

酒井氏はいちばん勢いに乗って熱くなって、「どーだ、敵わねぇだろ」と言ってるみたい。

黒沢氏は少し紳士的で「悪いけど勝つからね」って聴こえる。

村上氏はもう余裕。「てめーら相手になんねぇよ」って感じ。


11月11日の記事 】にも1行だけ書きましたが、酒井氏の声は本当に特殊な響きで、

あんな歌詞をあれだけ前かがみ(のイメージ)で歌っていても、

決してうざったくならないんですよね。熱は伝わるけど、嫌なヤツにならない。

黒沢・村上が同じテンションで歌ったら、うっとうしいぐらいになりそう。

「ワルになってやるー」と努力した結果のこの声ですよね。ブラボー。


喋りみたいな歌だなと思いました。酒井氏の歌ラップだけでなく、全体的に。

サビが同じ音の繰り返しでできていて、

メロディに乗って歌っているというよりは、調子をつけて挑発的に喋ってるという感じ。


サビに負けず劣らずかっこいいのが、冷ややかな平歌。

たまらんね、この人を小バカにした感じ。

たぶん平歌まで熱かったら、それもまたうっとうしいんでしょうね。

一度ひゅっと引かれるから、サビが活きてくる。構成が考え尽くされてますよね。

作曲法なんぞ全く知らないわたしは、ただただ「すげー…」と溜息をつくばかり。


歌ラップ、ライブではどのように再現するのでしょう。マイクで拾った声を加工するのかな。

手持ちメガホンで喋るとあんな音になりますよね。椎名林檎もやっていましたっけ。

編曲とプログラミングを担当した平田祥一郎さんは、

SMAPの『Dear Woman』の作曲・編曲をしていた方だったんですね。


「セクシー系の歌詞」と聞いていたので、女性に対して男性が「The Ruler」なのかと思っていました。

でもそんなにセクシャルではないし(2番の平歌がそうであるくらい)、

わたしとしては「獲物に群がるヤローども」に対するThe Rulerだと思いました。


* * *


※能の用語・いいかげんな解説

 ワキ:準主役・脇役。でも主役(シテ)より重要だと通は言う。

 大鼓:大きいけどカン!と高く鳴るほうの鼓。

 小鼓:小さいけどポンとかトンとか低く鳴るほうの鼓。

 笛:能管(のうかん)という横笛。ピヒョロ~と甲高い音が出る。

 地謡:舞台右側にいるコーラス隊(8人)。


観た演目は「敦盛」です。平敦盛の霊と、僧(むかし敦盛の首をとった男)の話。

12月には別の演目、それと一緒に野村萬斎の狂言も観るんだ~。うひ。


* * *

小ネタ。

映画『キル・ビル』のテーマ曲を思い出そうとしたら、

『狂詩曲』のストリングスが浮かんでしまいました。違うだろう。