こんにちは、田中リサです
今回は芥川賞チャレンジ第二十四弾
朝吹真理子 きことわ
を読みました。
以下、あらすじと感想です。
今回はあらすじ多めです。
永遠子(とわこ)は15歳の頃、母親の淑子(よしこ)が管理していた葉山の別荘の持ち主の子供、8歳の貴子(きこ)と夏が来るたびに遊んでいました。
貴子の母親の春子が亡くなってからは、別荘に行くことも途絶えていました。
25年後、別荘を売りに出すため久しぶりに永遠子と貴子は会うことになります。
会うまで成長して互いに変わっていることを心配していましたが、会うなり昔の呼び合い方にもどり、昔話に花を咲かせる2人。
その後、永遠子と貴子は各々家を片付けます。
永遠子は貴子と髪をとかしあいっこした思い出から、祖母の髪が薄く細く、地肌も透けていることにショックを受ける母親のことを思いだします。
そして、本当は貴子と同い年の妹がいたはずだったが家庭の経済状況を鑑みて産まなかったことを母親から突然告白されたことを思いだします。
貴子は二階で荷物を整理している途中、廊下で髪がえんえんと伸びて引っ張られつづけるような不思議な体験をします。
作業を中締めにして、二人は蕎麦屋に行くべく外に出ます。そして久しぶりに散歩をし、ここに道路反射鏡があったという永遠子。
覚えていないが、そこには向日葵が咲いていたという夏の記憶しかない貴子。
二人の記憶はすれ違っています。
そして共通した記憶、「真室川音頭」の一節「うめのはな」の話になり、永遠子が貴子の知らない先のフレーズを歌い、今年の夏に淑子と娘の百花(ももか)と三人で連れ立って行った葉山付近の海岸の盆踊りで知ったと話をすると、なぜか貴子はその時永遠子が着ていた浴衣の柄を知っていました。永遠子は聞き返したかったが聞き返せませんでした。
結局蕎麦屋は閉まっており、二人は食料品店でカップラーメンとおにぎりを買います。
カップラーメンができるのを待つ間、貴子は浴衣を着た永遠子を渋谷で見たと言います。
永遠子は渋谷には出かけていませんでしたが、
"今自分がどこにいるのかがわからなくともその場所にいることができるように、自分は葉山の海岸沿いにいながら、また東京の渋谷にもいたのかもしれないと夢のようなことを思った。本当に夢ではあっていたのかもしれなかった"
と考えます。
この作品は幻想的な場面がちょくちょく挟まれています。夢が現実を凌駕した場面なのかもしれません。
夕暮れになっても作業は終わらず、永遠子は貴子を残して自宅のある逗子に戻ります。
永遠子は買い物をして帰る途中、電車の遮断機が降りた直後、何かに強く髪の根を引っ張られ、尻餅をつき、一命を取り留めます。
後ろを確認したら、高校生が離れたところで呆然と永遠子を見ているだけで、ショートカットの永遠子の髪をいたずらで引っ張れるような距離ではありませんでした。
娘と夫と接するうちにそのことを次第に忘れ、永遠子は産後うつになりかけていた頃に見た夢か現実かわからない流星群のことを思い出すのでした。
一方貴子は、別荘の片付けが終わらず、別荘に泊まることにします。
母親の気配で満ちている別荘で亡くなった母親の思い出がいくつも迫ってきます。
翌日、夕飯を抜いたため何か食べたいと思っていた矢先、永遠子が弁当を作って居間に駆けつけており、貴子のおじの和雄も置きっぱなしのレコードを取りに来ました。
そして去り際に、和雄は
"貴子と永遠子の髪は、たしかにむかしからからがりやすかった"
と言います。
二十五年以上むかしの夜、布団を並べて眠る貴子と永遠子の髪が光の加減で一つなぎに見えていたのです。
その後、リサイクルショップの店員が来て細々としたものを引き取って言った後に雨が降ります。
二人は雨宿りし、雨が止んだ後それぞれ家路に着きます。
貴子は風呂で普段全く見ないはずの夢を見ます。それは更地になった別荘の夢でした。
永遠子から「今度遊びましょう」とメールが来ていて返信し、帰宅した父親の相手をするうち、貴子は夢を見たことなどすっかり忘れていました。
現実と夢と時間の境目が溶けてなくなるような作品でした。
この作品のテーマはおそらく「髪」「夢」「時間」で、たびたび永遠子と貴子を結びつけたり、不思議な体験をさせたりします。
夢が現実かわからない境目のない話も登場します。
大きな事件も取り立てて起こらない、穏やかなちょっと不思議な作品でしたが、
が、最後まですらすらと読んでしまう不思議な魅力がありました。
芥川賞の選評もそんなに割れず、緻密に描かれた構成を褒めているものもありました。