こんにちは、田中リサです
今回は芥川賞第二十三弾、
赤染晶子 乙女の密告
を読みました。
以下、あらすじと感想です。
主人公は京都の女子がほとんどの比率を占める外国語大学の二年生、みか子。
ドイツ語学科のバッハマン教授のスピーチ・ゼミに所属しています。
そこではアンネ・フランクの日記について学び、スピーチコンテストが一月に行われます。
十一月のある日、バッハマン教授はある日「ドイツ語現代学」の授業に乱入し、明日のゼミまでにアンネ・フランクの「一九四四年四月九日、日曜日の夜」を暗記していくよう告げます。
これ自分がやられたら地獄だなと思いながら読み進めました。
また、バッハマン教授はゼミ生に、
「あなたはいちご大福とウィスキーどちらが好きですか」
と尋ね、ウィスキーは「黒ばら組」、いちご大福は「すみれ組」と乙女達の派閥を勝手に作り、その派閥は恐ろしいほど乙女達の間に定着します。
派閥を作るって不思議なことをしますね。
競争関係を作り、ゼミを向上させたいのでしょうか?
みか子は密かに「黒ばら組」のリーダーの四年生の麗子様のファンなのでした。
誰よりも努力する麗子様のスピーチのファンでした。
翌日目の下にクマを作った二年生の乙女達はバッハマン教授にプレッシャーを与えられながら暗唱しますが、みんな失敗し、バッハマン教授は怒って教室を出て行きます。
その後、麗子様の発案で翌日の早朝から大講義室で自主トレをすることにします。
とある日、麗子様にバッハマン教授との黒い噂が流れます。
他の弁論の部の乙女達が何度も原稿の書き直しをくらうなか、麗子様があまりにもスピーチを早く仕上げるので、乙女らしからぬことをしてスピーチの原稿を作ってもらっているのではないかという噂です。
最初はすみれ組のリーダーの百合子様が眉をひそめただけでしたが、噂は少しずつ広がり、次第に噂は信憑性を帯びてきます。
女性の集まりって、こうなりやすいですし、派閥を作られると自然と敵対心も生まれ、とくに悪い噂を囁くことで団結しやすくなるものですよね。
麗子様の隠れファンのみか子はこの状況に困惑していましたが、麗子様がついに黒ばら組から追放されてしまいます。
ある日こっそり麗子様に会ったみか子は麗子様からこんな言葉を聞きます。
「みか子、心配せんでええんよ。私が好きなのはウィスキーでもいちご大福でもない。ストップウォッチやねん。あたしの居場所はすみれ組でも黒ばら組でもない。マイクの前だけやねん」
黒ばら組ではみか子の友人の貴代が異例の出世をし、黒ばら組のリーダーになります。
麗子様の噂が広まった時、「不潔」として、真っ先に麗子様の自主トレに行くのをやめたからです。
バッハマン教授のゼミでは乙女達はいつものように振る舞っていました。
発音やイントネーションの授業ではドイツからの帰国子女の貴代と麗子様は難なくクリアしていましたが、ある日貴代は、イントネーションが二週間も正しくできず珍しく苦戦し、イラついて教室を飛び出します。
みか子はそれを追います。
年月が貴代の言葉と記憶を奪い、ドイツ語が母国語ではなく外国語と化しててまったことに苦しんでいました。
数日後、麗子様の自主トレはみか子と麗子様の2人だけになってしまいました。
みか子は相変わらず演壇に立つと同じところを忘れます。
練習後に麗子様がみか子にかけた言葉がとても印象的でした。
「それがみか子の一番大事な言葉なんやよ。それがスピーチの醍醐味なんよ。スピーチでは自分の一番大事な言葉に出会えるねん。それは忘れるっていう作業でしか出会えへん言葉やねん。その言葉はみか子の一生の宝物やよ」
この言葉に私はジーンときました。
とてもいい言葉ですね。
みか子は噂の真相を探るため、直接バッハマン教授に尋ねることにします。
麗子様が好きだからこそ行動に移ったみか子かっこいいなと思いましたし、この時点で乙女達の世界が確固たる形で構築されていることに驚きました。
乙女だらけの世界を普通に受け入れている自分がいました。
真実は、バッハマン教授がいつも肌身離さず大切に持っているアンゲリカ人形に話しかけていただけでした。
そして、みか子はバッハマン教授とアンネ・フランクの日記について語り合っている時、乙女の一人がその様子をのぞいていて逃げられました。
みか子は密告をひどく恐れます。
真実よりも嘘の噂が勝ってしまうことってよくありますよね。
私もみか子と同じ立場だったらとても怖くて学校にも行けなくなったかもしれません。
翌日、バッハマン教授のゼミにはみか子と麗子様の2人だけでした。
みか子の密告が広がったのです。
バッハマン教授は来ませんでした。
アンゲリカ人形を誘拐され寝込んだため、休講になりました。
そこで麗子様が意外な真実を打ち明けます。
自分がアンゲリカ人形を誘拐したというのです。
代わりにみか子がアンゲリカ人形を匿うことになり、みか子はアンゲリカ人形をアンネ、自分をアンネたちを匿っていたミープ・ヒースに例え、怯えます。口の軽い母親に人形が見つかり、アンゲリカ人形を麗子様に返すことにします。
麗子様はアンゲリカ人形をバッハマン教授に返してあげたいといい、みか子は反対します。
ここでみか子がアンゲリカ人形を返すのに反対するというのがよくわかりませんでした。
結局みか子は麗子様にアンゲリカ人形を返却し、麗子様は常に肌身離さず持っていたストップウォッチを置いて、自分の探している言葉が見つかったと言い姿を消します。
そしてみか子が麗子様を匿っているという噂が立ちます。
みか子は乙女であることの証明にスピーチコンテストに出ないことを決意し、家にいますが、そこに麗子様を探しにバッハマン教授がきます。
「どうか忘れるということと戦ってください」
このバッハマン教授の言葉でみか子はコンテストに出ることを決意します。
コンテストでみか子はいつものところでつまづき、制限時間が過ぎてもバッハマン教授はベルを鳴らさず、みか子が思い出すのをじっと待っていました。
そしてみか子は忘れていた部分を思い出し、
「私は他者になりたい」この言葉と出会います。
みか子は自分自身こそが密告者であったのだと悟る部分があるのですが、ここからロジックが崩れてわかりづらくなっているなと思いました。
みか子に、
「わたしは密告します。アンネ・フランクを密告します」
と、「アンネ・M・フランク」というラストの
言葉を言わせてクライマックスに持っていきたいばかりに話のロジックが崩れてしまっているようで残念でした。
ここまでわかりやすく親しみやすい世界観を築いていたのに、最後の最後で崩れたような感じがしました。
全体的には乙女達の園特有の空気感、バッハマン教授や麗子様という強烈なキャラクター、駆け巡る噂、潔癖な乙女達が合わさり、そこにスピーチコンテストに賭ける乙女達の青春の要素もあり、とても面白かったですが、上に述べているように最後で話のロジックが崩れてしまっていて残念でした。
最後をもっとわかりやすくしてくれたらなとか、回収しきれてない伏線もあったのでもやもやとした読後感でした。