こんにちは、田中リサです
今回は芥川賞チャレンジ、第二十二弾
磯﨑憲一郎 終の住処
についてあらすじと感想を書いていきます。
三十を超えて今の妻と結婚した主人公。
時折不定期に不機嫌になる妻に振り回されて、疲弊していきます。
"もしここから抜け出すというのであれば、それはまさにいま以外にはないのではないか?早くしなくては! ぐずぐすしてるうちに年老いて逃げ遅れてしまうぞ"
という文から主人公の切実な追い詰められ具合が分かります。
妻は姑とも仲が良好で、
"外堀を埋めて退路を断つような、自由を放棄するような選択ばかりを繰り返していたのだ。"
と、結婚生活と妻に不満があるのに逃げ出せないのだと読者に訴えかけてきます。
そのうち主人公は
"会社の異常な忙しさと小さな失望の連続"
から、同じ会社の別の部署の女と不倫するようになります。
そして浮気している自分を恥じて女に別れようと伝え、女にあっさりと受け入れられ、その後必死で女に思いとどまるよう説得し、ついに妻と離婚することを決意します。
そして母に会いに行きます。
母は息子のために離婚に同意します。
妻は浮気のことを分かっているような気がするのですが、気のせいでしょうか?
妻をホテルのカフェに呼び出し、別れを告げようとしたある日、妻に妊娠を告げられ、結局主人公は別れませんでした。
浮気していた女とも1年かけて別れ、妻とともに子供のいる生活に没頭し始めました。
なんだか都合の良すぎる展開ですね…。
浮気しておいてバレずになんの制裁もないのは実にリアルなのですが、妻の妊娠は唐突すぎます。男の人にとってはこんなに唐突なものなのでしょうか?
彼はまた別の女と浮気します。
そしてある日、仕事を休んで妻と娘と遊園地に行きます。
その日の夕方から妻は口を聞かなくなり、
次に妻が彼と話したのは十一年後でした。
なんと妻は夫と十一年も口を聞かずに、夫婦関係を形だけ維持し、必要なことも娘の口を通して伝えていたのです!
何がそんなに妻を怒らせたのか?
男側の視点の話なので見当もつきません。
彼は十一年なるべく家に帰らないようにし、浮気していた女と二年付き合って別れた後、八人の女と浮気します。
ここまでくると、もはや奥さんと別れればいいのに…と思いますが、子供のことは可愛いようで、彼は娘から手渡された折り紙で折った動物や手紙を一まとめにして茶封筒に入れ大事に持ち歩きます。
なんだか切ない。
冬のある日、彼は家を建てることにし、十一年ぶりに妻と直接口を利きます。
そして家を建てたあと、彼は提携している米国企業と仲がこじれたため、再度表面上だけでも友好的な関係に戻すため、米国へ旅立つ社員に選ばれます。
異国で彼は、こんなことを考えます。
"人生においてはとうてい重要とは思えないようなもの、無いなら無いに越したことはないようなものたちによって、かろうじて人生そのものが存続しているのだった"
普段は気に留めない些細なことの連続で人生が続いている、深い言葉ですね。
最終的に米国の提携会社を無理やり買収し、彼は日本に帰り、妻の両肩を思い切り掴んで向き合い、死ぬまでの長くない時間を妻と過ごすことを悟り物語は終わります。
物事には分岐点があり、「結婚」からも抜け出せます。それをあたかも粘着して離れないもののように描かれているのが不可解でした。
男の人にとってある種結婚とは、妻とは、子供とは、家とはこんなにマイナスに捉えられるものなのかとも思いました。
小さな物事が積み重なって人生になるのであれば、彼は自分の望みも何一つ叶えられず、大きな世界の流れに飲み込まれて淘汰されて、なんの喜びもなく死んでいくのかと思い、怖くなりました。
人生は早く進み、のろのろとしている時間はない。
望む人生を歩みたければ、自分と向き合い、小さな望みを叶えていかなければ、きっと淘汰されて人生は終わってしまうだろう。
この作品はそんな教訓にもなりました。