ネットは「身体性」を欠いている?/朝日新聞Be佐野眞一さんインタビュー、木嶋佳苗氏に関して1 | 桃色テラス

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あはれ来て野には咏へり曼珠沙華

三橋鷹女が理想です。

 昨日(2012年6月30日)付の朝日新聞別刷Be「フロントランナー」に、ノンフィクション作家・佐野眞一さんのインタビューが掲載されていた。
 感想をつらつらと。

 *以下〈〉内は2012年6月1日付朝日新聞より引用。


 佐野さんが好きで、何冊か著書を拝読している。最近では『津波と原発』が読み手があった。ただ、この記事の結婚詐欺・連続不審死事件(婚活サイトで男性を引っかけて、練炭自殺に見せかけて連続殺人/wikipedia:結婚詐欺・連続不審死事件)の木島佳苗氏に関する「身体性」の記載には引っかかった。

 まとめると、木嶋氏からは「身体性」が感じられず、価値観を全てフラットにしてしまうインターネットで培養されたモンスターだ……というような内容だ。

 同事件について新聞やWEBで概要を読むと、〈身体性が感じられない〉どころか、身体性や欲望が凝り固まっているようにで、なんだか、ちょっと、痛いぐらいだ。(「イタイ人」というような用法ではなく、そのまま素直に「痛い」)。

 この感覚の差はなんだろう。

 未読だが、佐野さんは近著『別海から来た女――木嶋佳苗 悪魔祓いの百日裁判』のなかで、裁判を傍聴し、背景を丹念に洗っている。その上でのコメントだった。そこまでして、1冊本を書き上げてまで感じられなかった「身体性」って、なんなんだろう。
別海から来た女――木嶋佳苗 悪魔祓いの百日裁判/講談社

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〈人を騙す天性の資質が、インターネットのデジタル世界を触媒として、モンスターへ肥大化していった〉
〈デジタル世界は(中略)いわば価値の「等高線」を消し去って、すべてをフラットで等価なものにしてしまう〉


 〓〓の「せい」で、子どもがキレやすくなったり人の心に闇が出来たり社会が腐敗したりと忙しいわけだが、〓〓に代入されたアイテムは数知れず、この十数年ばかりを振り返っても、テレビ漫画アニメときてゲームにケイタイ、お次はインターネット、今ならさしずめSNSか。
 twitterでの短文コミュニケーションに浸りきってしまった世代は長文かつ言葉を発する必要があるリアルな会話に適応出来ずに生きずらさを感じている――とかね。
 適当に何とだって言える。何でもいいんだろう。それって乱暴にすぎやしないか。
 〈人を騙す天性の資質〉があって、〈インターネットが触媒〉になった結果として事件が引き起こされた――天性のモノがあり、自身が生きるリアルとは別の世界……つまり、「自身の世界とは全く関係がない」と主張したいかのようだ。


 しかし、デジタルの世界は〈生身の僕らが生きているアナログ世界〉に比べて等質かというと、思いの外、そうではなかったんじゃない? 期待はずれだったと言ってもいいぐらい、右を見ても左を見ても差異ばっかりだ。
 たとえば、「情報弱者」というネットスラングがあるように、手にする情報の質は等価値ではない。また、課金の有無や費やした時間によって、ゲームやサービス内で使えるアイテムが違う、出来ることが違うなんてザラだ。多様過ぎる価値の渦に飲み込まれることこそが怖い。

 その実感が佐野さんにはないのだろう。
 
 「佐野さんはインターネットを自らが生きる〈アナログの世界〉の境界の向こう側の世界だと定義して、理解しずらい〈モンスター〉をそこに祭り捨ててしまいたいのだろうか」――と当初は感じたのだけれど、もしかしたら、ネットの向こうには等価値な世界が広がっているという一種の理想を抱いてしまっているのかもしれない。(ユートピアも異界であることに変わりはないけれど)



 長くなっちゃったので続く。




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