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As yet I have no name!
「りさ」とか「りっちゃん」と呼ばれ慣れてしまったこの頃は、名前なんて結局、記号や番号と同じ、なんでもいいんじゃないんすか、なんてすかしていたはずなのに、自分の将来産むかどうかもわからない子供のため、まだ在りもしない存在のために私は小学生の頃からせっせとその「在りもしない存在」の名前を飽きもせずに考え続けているわけで、決めては取り消し決めては取り消し、結果としていくつもの名前が、私には売るほどある。
そうして最終的に行き着くところは無理のないすっきりとした名前なのだろう、どんな名字にも合うように。
友人と向かい合って昼食をとりながら(といってもこのときの私のメニューは栗饅頭とおかきという昼食とは呼べないようなものだったけれど)、頭上をゆく飛行機を見上げ、眺め、首をいためる、毎度。
飛行機を見るのは好きで、いま、誰かがこの瞬間、わくわくしながらどこかへ向かっているのだ空を渡って、って思うのが好きで、だから空を見上げて「わぁー、あんなに青い!」なんて言ってみるけれど、空が青いのなんて、昔は当たり前だったな。
ランチタイムが終わり午後の授業開始直前、貸出延長したドストエフスキー全集、これ系読んでる場合じゃないぜっていうんで、誰かにみつかる前に隠しちゃうもんね!っつーことで無理矢理カバンに押し込んで、上から古語の注釈書をぐいぐいぐーいと一生懸命なりっちゃんでしたが、始業ベルとともに入ってきたのはとんでもない美人、しかもなんか英語喋ってるし、カバンに手をとられたままポカンと美人を見ていると、何やらこちらに来る様子、「~~~、~~~、All right?」
ちょっとうまく状況が掴めないんですが、どうやら美人に英語で「いいですか?」と尋ねられている模様、何に対してか不明だけれど、とにもかくにも返答を、って追い詰められた結果、「ノ・・・ノットオーライ?」などという完全に不完全な英語を返し、キョロキョロあたりを見回すと、黒板には世界地図、そして知らない顔だらけ、教室を間違えたのだと気がついて立ち上がった私がこの手に持っていたのは、平等院鳳凰堂で購入した「極楽浄土のイメージ図」みたいなクリアファイル、ああ、この教室に私の居場所は無いのね。
I am a cat. As yet,I have no name.
漱石の「吾輩は猫である」の英訳はこの一文からはじまり、私はこの作品が好きだけれど英語はどうも苦手、catの前にaとか付くんでしたっけ、物の前じゃなくてネコの前にもですか?とかそういうレベルなので御免。
いつかの暑い夜、でましたゴキブリ男爵、しかも割と大柄、私の部屋は6階なんだけれど出るときゃ出るのね、っつーことでFIGARO読みつつふっとこう顔あげたらばそこに君臨、「ここまで上がってきた実力は認めるがここは君の来るべきところではない。加えて言うならば、ここでは君の絶対的脅威とかそーゆーもんは通用しない。実家であれば君の存在など黙殺させてもらうけれどもここではそうもいかないのでね。」と述べると(お隣さんに聞こえたらアレなのでボソボソとね)、カサカサと向きを変えて進もうとしたので、すかさず緑色の爪ではじくと、一瞬よろめいたがまた立て直し、テレビの裏側へ避難しようとしている。私もちょっと真剣に追ったけれどその夜はそこで見失ってしまった。
そしてその翌朝、洗顔をしようと洗面所のドアを開けると、ひとあし先に起きて洗面所で用事をしていたと思われる彼もしくは彼女の姿が。私はそっと近づきひと思いに掌で包んでやろうと神経を集中させる、そしてはいッ、包んだよ!はやく袋袋!「起き抜けと思って油断したな。」と心で言うと、次の瞬間親指と人差し指の間にどうしても出来てしまう隙間あるやん、そこからするりと抜け出して、そこからタオルに飛び移り、床に着地し積み上げられた段ボールの奥に走り去った。
この敗北感。
おうちに帰るまでが遠足ですという言葉が頭の中で反復。
そうしてその次の夜、滝川クリステル(その頃はまだ彼女があの番組やってらした)のニュースを観ていたところ、彼もしくは彼女の気配が。もはや同居。数時間前に大事なプリントに排便らしき形跡を発見した私が慎重に音のするほうに目をやると、クローゼットの付近からこちらをうかがっている。クローゼットの付近だということでへりくだった態度をとらざるをえないと判断、「あのまあ色々ありますけど、洋服は勘弁していただいていいですか。」「あんたの洋服なんて知ったことではない。」「私の皮膚なんかはねーこれ洗えばいいんですが、衣類となるとちょっとね。」「多くが古着ではないか。こんなものもうとっくに汚物がついとるわ。」「まあその可能性もありますが、古いもんほど大事にしたい時とかありますやん。あ、では便意を催されたら移動していただいていいですか、できればあのごみ袋のあたりに。あの市の指定のあれなんですが。」「あんたと対話する気は毛頭ない。失礼する。」「あの!せめて本だけは!村上春樹のあたりはちょっと立ち入り禁止ってことでお願いします。安野モヨコあたりも。あ、あとおおたうにと漱石と吉屋信子と…」「中原淳一はよいのだな。」「あ、その辺も。衣類と同様、紙もまた然り。」「人間とは実に愚かな生物だな。そんなちっぽけな事ばかりに気をとられているのか。つーか昨夜思ったんだけど、就寝時に斉藤和義はやめてくれる。ロックじゃ眠れない。」
お前も案外小さいこと気にしとるやないかーい
と髭男爵ばりにつっこみたいのを抑え、「じゃあマライアキャリーのバラードとかにしときますか今夜は。」「いや、奥のほうに押尾コータローあったろ。見たし。」「え、ありました?押尾コータロー。」
そう言いながら押尾コータローを探すふり、油断した彼もしくは彼女を今宵こそこの手で捕らえようと振り返って身を乗り出す!しかしその気配を察知され、今度はもう私の手の届かない上の上のほうへ。
で、捕まえてもまたまたするりと逃げられてしまう可能性大なので、ガムテープを貼り付けてやろうと左腕にガムテープを貼って待機、押尾コータローのくだりあたりで、隙を狙うという卑怯な手をつかおうとしたお仕置きで調子のんなよ的なアレで、朝起きて本に排便の痕とかあったらまじショック。
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つってその後ゴキジェットという文明の発達の賜物を使って私はこの勝負を制したのだけれど、これって卑怯の極みだったりしてね。