続・続 人間機雷 317
第六章 夢幻泡影
三 歳月
2 憂国 13
「戦後の日本ではマスコミが“アジアの国々に多大な迷惑をかけた。アジアの国々に謝罪しなければならない”と報道し続けてきた。しかし、日本の近代史を振り返れば、なにをか言わんやだ。インドをイギリスが、フィリピンをスペインとアメリカが、インドネシアをオランダが、ベトナムをフランスが、それぞれ数百年に亘って、じりじりと侵略し続けてきた歴史は明白であり、何もいまさら声高に喋るような史実ではない。
徳川幕府を打倒して明治元年を名乗った1868年の、アジアの版図を振り返ってみたまえ。国際的には、日本はチョンマゲを結っていた平穏な小国だった。その小国が、強烈な自己防衛の意識を持とうとしたからといって、それを誰に咎める資格があるというのか。もはやその時点で、日本は列強諸国の侵略の対象になっていたのだ。
新生明治の初め、清国が誇る戦艦『定遠』『鎮遠』を含む艦隊が日本を威嚇するために横浜まで巡航し、帰途長崎へ上陸して略奪、婦女子への暴行をほしいままにしていったことなど、歴史から消し去られている。だから若い人でその事実を知る人はほとんどいない。
日本は徳川体制を倒し、わずか27年にしてこの定遠・鎮遠を含む清国の北洋艦隊と戦いそれを撃破した。これが1894年の日清戦争だ。さらにその10年後、徳川体制を倒してわずか37年にして、ロシア大帝国と戦い、日本海海戦においてバルチック艦隊を殲滅そせた日露戦争(1904年)、さらに昭和16年の太平洋戦争初期には不沈を誇っていたイギリスの『プリンスーオブ・ウェールズ』や『レパルス』を撃沈している。単純に考えてみれば、日本を狙っていたこれら大国の艦船は、新生日本がわずか70余年にしてすべて撃ち沈めているのだ。誇らしいことではないか!!しかしだ、GHQに洗脳されたいわゆる進歩的文化人と言う輩や共産主義者は、日本の侵略性だけを叫きちらすが、では何故にイギリスの不沈戦艦レパルスやプリンスーオブーウェールズがアジアの、それもシンガポール辺りに居座っていたのかについてはひと言も言及しないのだ。その結果どうなるかね」
「要するに共産主義者や進歩的文化人と自称する醜い日本人が、日本の非のみをわめき続けることによって、その実態や実像がまるで判別できなくなってしまったということでしょう。先生が仰るとおりいつまで“魂なき繁栄”にうつつを抜かしていてはいけないのです。戦中戦後を通じて日本中の人びとが、誰もが飢えていた。敗戦となり、日本は自ら魂を売ってパンを買った。それも仕方なかったろうとおもいます。だがもう十二分に空腹は満たされたのではないでしょう。いつまでも飽食に浸っておらず、もうそろそろ、あの時売ってしまった“魂”を収り戻し始めるべきだとおもいます」
黒崎がため息交じりに答えた。
「しかし、大井君も知っての通りもっともっと素晴らしいことで、日本は世界に貢献しているんだな。1494年だったかな、今から500年ほど前だ。ローマ法王アレキサンドル六世が、“地球を二つに割って、半分はスペインに、半分はポルトガルにやろう”と言ったところから、西洋の世界侵略が始まった。ピサロがインカ帝国を滅ぼし、バスコーダーガマがアジアに入ってきてから500年になんなんとしているけれども、白人支配の社会の中では彼らが神なんだ。アフリカの黒人は単に奴隷として存在した。だから、網をかけて野鳥をとるように捕まえ、奴隷化していったし、アジアはことごとく侵略の対象になった。そして、有色人種が白色人種と対等に戦い、初めてかろうじて勝つだのは、あの日本海海戦なんだな。バルチック艦隊の戦いによって、奴らのエルギーが反転する時期を担ったのは、日本なんだ。それは声を大にしても子供たちに誇りとして教えなきゃならないと思う。
世界史の中でどれだけアジアの人たちが、そしてアフリカの人たちが苦しんだことか。
だからこそバルチック艦隊を壊滅させた日本海海戦を転機として、日本はアジアの曙であると思ったからこそ、孫文や日本に逃れてインド独立運動を続けたビハーリー・ボース・蒋介石などがみんな来日し、日本で勉強をして“西洋と戦おう、独立を勝ち取ろう”という鋭意努力をしたんだ。もちろん、善と悪は混淆している。だから、すべてが良かったと言っているんじゃないけれども、日本の誇るべきことだと僕は思っているのだよ」
「恥ずかしながらそこまで理解していませんでした。しかし、黒崎先生のお話で救われたような気がします。ありがとうございます」
続
次回7月2日
