今年も綺麗に桜が咲いた。
私、松永香帆(まつながかほ)は幼馴染の藤村蒼(ふじむらあお)と
丘のてっぺんに咲く1本の桜を見にきた。

「うわーもう終わりの頃なのかな、桜満開だよ!!」
「すげぇなー。去年より咲いてるぞ、たぶん。」

私達は風に舞う桜吹雪に見惚れていた。
一本しかなくとも充分なくらい、桜は堂々と咲き誇っていた。

木の下で、舞う花びらをつかまえたり、木の周りを走り回ったり。
ひとしきり遊んでから、私達はその桜の木に登った。

「前、見えないやぁ」

満開の桜に囲まれる。
不思議な感じ。

「ねぇ、中学、どう?」

私達は近くに住んではいるのだが、ほんの少しの距離のために中学は離ればなれ。

「ん、それなりに楽しいよ。」
「そっかあ、私もね、新しい友達とかできて楽しいよ!!」
「おお、それはよかったな。」

さぁっと風が吹いてまた桜が舞う。
座っていた木も少し揺れる。

ふたりの間に、静かでゆっくりな時間が流れた。

「でも、お前いなくて寂しいよ。」
「…へ?」
「…だから!!お前みたいにギャーギャー騒ぐ奴が居なくて教室が静かだって言ったんだよ!! 笑」
「ちょ、ちょっと!!どういう意味よ!!!!!」
「平和だよ、平和 笑」
「ばか!!!何言って!!」

その時、彼がふわっと近づいてきて、

「花びら、ついてる。」

そう言って髪に触れた。

うわ、反則…
めっちゃかっこいいじゃん…

私は顔を直視できなくて目線を下げた。
卒業してから3週間も経ってないのに…
ちょっと前まで、もっとガキっぽかったのに…
いつのまにこんな顔するようになったんだろう…

蒼が遠くなった気がした。

「ん、とれた。」

そう言って、彼は私から離れた。

「あ…ありがとう」

こんな私に彼は「何かしこまってんだよ。」と笑った。

「あのさ、蒼。」
「何?」
「私ね、蒼のこと、好き…だよ。」
「そんなこと知ってるよ。」
「あのね、そうじゃなくて!!」

蒼の方を向くと、彼の顔はとても真剣だった。

「分かってる。友達とか、そんな軽い好きじゃないって。」

私は何も言えなくて、ただそのまま彼の目を見ていた。

「俺も、好きだよ。香帆のことが。」

そう言って蒼は私に近づいて、ゆっくり短いキスをした。



「………ん、、、あ・・」

私が起きるとそこは病院の個室だった。

またこの夢…
春だからかな、毎年見る…

目の前には呼吸器をつけた蒼がいる。
そう、蒼は、あの日…


【つづく】