潰れた喉でうたううたは、とあるひとを想ううた。
祈りの歌、或いは ――02――
「まァた歌ってる~。へたくそ~。」
とある大きなお屋敷の、きれいな景色が一望できる屋根の上。紅色の長い髪をかき上げながらサンは話かける。シチリアの街並は美しい。そして見渡すと、ところどころに「友人」が散らばっている。そしてもうひとり、紫煙をくゆらせながら金髪の犬はうたうのを止め、サンを見やる。濡れたように煌めく長い睫毛、サファイアの双眸、潤んだ唇。ダビデというその犬は美しい容姿ではあるのだが、その歌声がその男の性質を端的に語っていた。
「五月蝿ェよ…。歌は、これしかうたえない。」
嗄れた声。恐らく長年の喫煙が喉を潰してしまったのだろう、その容姿に似合わぬほどに掠れた声で、ゆっくりと告げた。うん知ってる、そう頷いて、サンはダビデの横に座り、胸ポケットからくしゃくしゃになったソフトパッケージを取り出し、ラッキーストライクを一本銜えた。火をつけようにもここは屋上、風が強く、うまいように着火しない。少々の苛立ちを覚えていると、ダビデがラッキーストライクの先端を手で覆った。ライターのかちり、かちりという音が耳障りだったのだろう、彼は耳があまりにも良過ぎるためそんな些細な音の繰り返しが耐えられないのだ。ダビデが手でつくった壁を更に強固にするように、自分の手を重ね、煙草に火をつけた。
「…ソルジャー、増えたね~。」
「…そうだな。テメェ等には良い事じゃねェの、仕事が減るぜ?」
「ほんとうにそんなつもりで彼女を拾ったの~?」
サンはずばりと話を切り出した。いつもの事だ。そしていつもどおり、ダビデは適当にその質問を躱す。いつだってそうだった。それはエマのような飄々とした相手にも、ハイドのような真面目な相手にも、この男と接していると絶対に聴いている筈のひとことを、サンからすれば何度聴いたか解らない程に聞き飽きたその台詞を、楽しそうに言い捨てた。
「当ててみろよ、ちょっとしたゲームだ。」
またそれか、と呆れたようにサンは天を仰いだ。これを言う時は「絶対に誰にも言えない事実が含まれている」、長年傍にいたサンだからこそその事を知っているのだ。そしていつもは適当に返事をするのだが、それに苛立った時は、ちょっとしたジャブで仕返しするのだ。それが彼等の遊びだった。
「【それは、今の歌と関係がありますか?】」
ぴくり、とダビデの眉が動く。サン自身も言った後にやってしまったと察した。それは彼にとって最大の疵。それについて話すと、彼はいつだって。ああ、ほらまた。
「 」
ごう、と突風が吹く。金粉を鏤めたような美しい髪がばらばらと舞い、その表情を隠してしまい、声も聞き取れなかったが、想像はつく。そのさまを想像し、背筋に悪寒が走る。あれはこの世ならざるもののような、しかし恐怖とはまた別の。少しの沈黙が流れた。それは「ダビデにはありえない」感情だった。金髪をかき上げ、ダビデはシチリアの街並を見下ろす。にやり、といつもの表情をし、サンの方を向く。少し悪戯っぽく下を指差し、屋敷の前でわあわあと騒ぐエマとリッチー、それを後ろから我関せずと眺めるフィオナを見やる。今日はどんな悪戯をしてやろうか。餓鬼のように楽しそうに笑う姿、それが本来の「ダビデという男」の笑顔なのだ。そしてふと重要な事に気付いたのか、きょろきょろとあたりを見回し、口角は上げたまま、少し寂しそうな顔をした。それの理由はすぐに解った。そしてついでなので前々から思っていた疑問を口に出した。ダビデは立ち上がり、窓から室内に戻ろうとしていた時だった。
「何でお前、そんなにハイドを気にかけてるワケ~?」
執事と主人、という立場で彼を見ているだけではないような気がしてならないのだ。ぴたり、と動きが静止する。そしてすぐ、ひとつしか知らない歌を口ずさんだ。その時に、サンは気付いてしまったのだろう。今日「彼の疵を二度抉った」事に。目を伏せ、そういうことか、と呟いた。その呟きは風に流され誰にも聞かれなかった。そう願いたかった。
「Pifferi, timpani,cembali,
svegliate mia Ninetta,
acciò non dorma più」
ダビデはひとつしか知らないその歌を、何度も何度も繰り返した。
「Tre giorni son che Nina
in letto se ne sta
Pifferi, timpani,cembali,
svegliate mia Ninetta,
acciò non dorma più」
ひとり取り残された青年は、悔しそうに、苦しそうに、唇を噛み締めた。
そしてひとり、ぼそりと呟く。
「ああ、そういうことか。」
ラッキーストライクは、フィルタ部に引火して、サンの手に火傷の跡を残した。
「ニーナも黒髪蒼眼だったもんね」
祈りの歌、或いは追憶と涙の前奏曲 ――NiNa 02――
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^q^
歌詞は「ニーナが床に臥して三日になる」です。
文章書きたかったんだけどサン君無双すぎたごめんなさい^q^wwwww
本当はハイドんの話はもっと後で書く予定だったんだけど…もういっかなーって。
あれ?もう二度と文章書かないんじゃなかったっけりんりんさん??←←←←←←←
寝るー←