ネタバレが嫌な方は即Uターンしてください。
また、あくまで私が選択したものであり、
結果を保証するものではありません。
選択肢は載せていません。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
秀吉は一瞬だけ私を見て、苦しげに眉を潜めた。
信長「どうした。なにか不満でもあるのか?」
秀吉は唇を噛みしめた後、頭を畳に押し付けた。
秀吉「殿、おめでとうございます!」
「え…」
秀吉「世話役ありがたく務めさせていただきます」
顔をあげた秀吉には笑顔すら浮かんでいる。
(まさか…本当に信長様と私のことを祝っている?)
(秀吉には、私の言えの事情のことは話していない)
(無理やりのいいなずけだとは思ってもいないだろうが…)
(私の心細い気持ちは知っているはず…なのにどうして祝いの言葉など平然と言えるんだ)
秀吉「では、失礼いたします」
秀吉は私の顔を見ようとはせずに退室してしまった。
信長様が人を下がらせると、私は二人きりで部屋に取り残された。
信長「祐美、お前のために人払いをしたのだぞ。恨みのひとつもあるだろう。まずそれを聞こうか」
「それでは信長様、申し上げてよろしいでしょうか」
私は姿勢をただし、目の前の信長様を見据えた。
信長「その目、さっきもにらむような瞳で俺を見ていたな。…申してみよ」
「恨みなどございません。ですから、神威家へのお咎めが無きようにお願いしたいのです」
(父上と母上は私を死んだことにして、信長様から遠ざけた)
(つまりは、信長様の命令に背いたというこ。そのことで信長様からの報復がないとは限らない)
「信長様は神威家をどうなさるおつもりですか」
私は信長様の瞳を見つめた。
信長「自分の身よりも、家のことを案じているのか。気丈な女だ」
「……」
信長「俺が神威家を攻めたら、お前はどうするというのだ?」
信長様が私の覚悟をためすように近づいてくる。
「くっ…」
私は、懐に抱いていた小刀を取り出し、目の前の信長に見せる。
「近づかないでください」
信長様はふっと微笑んだような気がした。 それ以上はは近づかずに、その場に腰を下ろす。
信長「お前がおとなしく俺の傍にいて、神威家から手を出してこない限りは何もしない」
意外にも優しく言われ、私は戸惑ってしまう。
「一切の制裁はないということですか?」
信じられない気持ちがして、私は信長様にもう一度だずねた。
信長「ああ、安心しろ」
「お言葉、確かに聞きました」
(しかし信長様は、私がここで大人しくしていれば…とおっしゃった)
(神威家が助かるためには、私はここにいるしかない)
(裏をかえせば、私が逃げたときは…神威家はどうなるか、わからないということだ)
信長「祐美、顔をよく見せろ」
突然、信長様が腕を引き寄せた。
「あっ…」
間近て顔を覗き込まれる。掴まれた手首が少し痛くて、私は反射的に信長様をにらんだ。
信長「ほう…意志の強そうな瞳だ。悪くない。ただ…今、瞳に映るのは不安、か」
わずかな不安を見透かされ、私は身を固くした。
信長「そんなに警戒するな。祝言まではお前には手を触れぬ」
「祝言、まで…」
突きつけられた現実に、めまいがしそうだった。
(いいなずけと分かった以上、近いうちに私は信長様のもとへ嫁ぐことになる。この人のもとへ…)
信長「怖れた顔をするな。いかなることがあろうと、俺はお前を大切にすると約束する」
信長「世話はサルにさせる。用意させた部屋へ下がれ」
「…はい」
信長「ああ、その姿でも魅力的だが、着替えて女子らしい姿も見せろ」
「…わかりました」
*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆
私は侍女に部屋へと案内された。
南側のその部屋は明るく、床の間には美しく花が生けられている。
捕らわれた身でなければ十分に満足できただろう。
侍女「祐美様、お召し物を失礼いたします」
そうして着替えさせられたのは、目にも鮮やかな衣装。
侍女「きれいな御髪ですね。結わずに流しておきましょう」
(女の着物は…やはり慣れない)
侍女「本当にお似合いですよ、姫様」
「あ、ありがとう…」
そわそわしていると、襖の向こうから声がかかる。
秀吉「祐美様、秀吉にございます。 失礼してもよろしいでしょうか」
侍女「秀吉様、もうお支度は済みましたよ。 では失礼します」
秀吉が侍女を入れ違いに部屋に入ってくる。
秀吉「やっぱり…似合うな。 祐美は綺麗だ」
あの時と同じように私を綺麗だと言ってくれる。しかし、秀吉の笑顔はとても寂しそうだった。
戸惑いながらも秀吉の目を見つめる。すると、秀吉は急に頭を下げた。
秀吉「さっきはすまなかったな。あまりの突然のことで、俺はどうしていいのか分からなくて…」
(秀吉は悪くない。あの場で主君に逆らうことなど出来ない…)
「いや、秀吉が世話役としてそばにいてくれる。だから心強いと思っている」
秀吉「祐美…」
伸ばされた腕が私の着物に触れるが、突然力なく下ろされる。
秀吉「…もう、こんなふうに俺が触れてもいいような人ではないんだよな」
「…信長様のいいなずけだと知っても、秀吉は私を守ってくれるのか?」
秀吉「それは…」
秀吉の苦しげな表情に、私の心はざわめいていた。
(もし、秀吉が守ってくれなかったら、私は味方もいない場所でどうすれば…)
焦る気持ちが苛立ちとなり、私は攻めるように問う。
「すぐに帰れるように頼んでみると言ってくれたのに…」
秀吉「……すまない」
秀吉はこらえるように拳をにぎり、ほとんど消え入りそうな声で呟いた。
秀吉「お前を守りたいという気持ちは変わらない」
秀吉「だが、信長様がお前を望んでいる以上、俺は従うしかない」
秀吉「…殿なら絶対にお前を幸せにしてくれるよ」
「幸せにーー…?」
(あの時、おめでとうといった言葉は秀吉の本心?)
「…一人になりたい。出て行ってほしい」
秀吉「……」
秀吉は言葉もなく部屋を出て行った。
秀吉『殿、おめでとうございます!』
秀吉の笑顔を思い出し、胸が痛くなる。
(こんなにも辛いのは、どうしてなのだろう…)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
秀吉6日目~前編~に続きます →
