「パスピー廃止問題」アストラムライン要請報告
昨年11月に発足し、この間のパスピー廃止問題に関わる運動を牽引し、広障連もこの会に加盟して運動に参画している『広島の公共交通の利便性を守る会』によるアストラムライン(以下:アトム)要請に安佐南区長楽寺にあるアトムを運営する広島高速交通の本社に10月28日に訪問しました。アトムへの要請は1年前に続き2回目です。前回の要請では、アトムのパスピー廃止が11月末に迫るといったタイミングで訪問し、その際の懸念事項を交渉しました。今回は、今年3月末、全ての交通各社においてパスピーのサービスが終了となり、課題も明るみになっているなかで具体的な改善に向けた中身を協議しました。以下は、要請書に記載している項目とその基本回答です。
1. パスピーに代わるイコカでもパスピー割引(10%)と同じような割引を実施するようにしてください。
⇨ 基本的にアトムは、割引を前提とした運賃設定をせず、最小限に必要な運賃をいただくようにしている。老朽化した設備の改修、車両入れ替えも行なっていることから経営は厳しく、運賃を引き下げる余裕はない。
2. 記名式障害者割引パスピーと同じように、記名式障害者割引ICOCAの利用において、自動改札機にタッチすることで料金が支払えるようにしてください。
(「記名式障害者割引ICカード」とは、既に障害者割引の情報が組み込まれたICカードの事です。こうしたカードの利用によって、改札での支払いが障害者手帳の提示もなく、改札にICカードをかざすだけでスムーズに運賃を支払うことができます。)
⇨ 記名式障害者割引ICOCAの運用については、JRのシステムを利用しているアトムで行う事自体が困難。バスなどで運用しているICOCAとは仕組みが違う「鉄道式」を採用している。システムの改修にはシステムの配給基であるJRの対応が不可欠になってくる。現在は、この対応に代わる「特定割引回数券」を発行し、利便性を向上させている。
ICOCAをパスピーの後継に選んだ理由は、安佐南区の交通網はJRとの接続の利便性がいいと考えICOCAを採用した。モビリーデイズは、読み込み速度が遅く、アトムの改札での利用は不向きと考えた。
* 上記の基本回答を基に協議しました。
運賃の割引に関して
運賃割引に関しては、公共交通機関としてのアトムを今後も繁栄させていく為の手立てを行政と一緒になって考えてほしいと訴えました。今後は、高齢化も進み、マイカー利用も困難になった多くの方が公共交通の利用を必要としています。しかし、以前からアトムは、運賃は高いとの指摘があります。今後は延伸工事も進み、西広島駅にも接続し、交通網は拡大していきます。今後は、市民がもっと利用しやすい交通機関となるように行政も巻き込み、広島市の交通施策として、利用しやすい公共交通へと改善するべきという訴えをしました。
記名式障害者割引ICOCAの発行について
アトムでは、バス会社が発行している記名式のICカードの仕組みとは違う「鉄道式」というシステムを利用していることから、バスICOCAでは可能なこうした仕組みを鉄道式では利用することはできない。といった回答となっています。こうした対応によって、パスピーを利用していた時には、改札でのタッチ決済によって自動的に割引が適応されていましたが、現在は、券売機にて半額処理を行った切符をその都度、購入しなければ割引を受けられなくなりました。その代替手段として発行している回数券の購入に関しても、券売機で係員を呼んで障害者手帳を確認のうえ、購入するといった手間が生じています。又、この回数券の購入に関しても、購入時、係員に手帳を渡し、本人確認といった名目で当事者の方を凝視されている状況に違和感をもった方からの苦情も伝えました。現状は、障害当事者の方や係員の方も以前は生じなかった手間が発生し、困惑している状況であると言わざるを得ません。
その改善については、社内でも検討していることがあるとお知らせしていただきました。近畿圏を中心に岡山県・静岡県を含めた59の鉄道・バス事業者で構成するスルッとKANSAI協議会が各地の公共交通機関で展開している「スルッとKANSAI」の特別割引用ICカードのシステムを利用し、以前のパスピーで運用されていたような仕組みにしていく検討がされています。このシステムの導入には、未だ多くのハードルが生じていますが、是非とも実現してもらいたいと思います。
交渉を振り返って
今回の交渉を振り返るなかで、アトムを運営する「広島高速交通」においても、私たちの要求を実現していくうえで多くの課題も踏まえながら運営されているのだと思いました。パスピー廃止問題に共通していることは、交通各社、経営努力を重ねるなかで、市民の声を受けて少しずつ改善部分が見られています。しかし、未だ多くの課題が残されており、その対応については、人口減少による利用者減少やインフラの維持に伴う設備投資や修繕等の財政支出による収益減の要因もあり、交通各社の経営努力だけでは限界があるといった事を感じています。
この問題は、「公共交通機関」の問題です。「公共」の乗り物に関して、もっと国や自治体等の「行政」が支援に乗り出し、障害がある方や高齢者といった交通弱者といった方々の移動を保障し、誰もが利用しやすい公共交通となるように予算措置が図られる等の対応が必要になっています。
又、この間、特にICOCAのシステムの問題改善に関しては、JRが関係する事が分かってきました。今後については、地域のインフラを支えている企業体より、より財政基盤も安定し、体力もあるJRといった大企業が率先してこの問題に関わっていくといった「社会的な責任」を求めて運動していかなければならないと思います。今後も公的責任とインフラを維持する企業への社会的な責任の追求といった多方面への働きかけを強めていきたいと思います。