All the Pretty Horses | From a Back Alley

From a Back Alley

The Buffer in the Synopticon

 

 幼い頃、しばしば祖父に馬を見に連れて行ってもらった。連れて行ってもらったと言っても、競馬場にではなくどこぞの牧場の馬小屋にである。祖父はその馬をポニーちゃんと呼んで可愛がっていたが、正式な名前は不明だ(まだ幼かった俺はポニーちゃんという固有名なのだと了解していたため)。その馬がどのような容貌をしていたのかは明確には思い出せないが、焦げ茶色の皮膚と漆黒の鬣をもった小柄な馬だったように思う。少なくとも子供が怯えて逃走するような風貌ではなかったのは確かだろう。

 この話が何かに繋がることはない。単なる記憶の断片に過ぎない。汲み取るべき教訓もない。俺の感傷をやや喚起させるだけだ。ただ、この話へと繋がったものは存在する。

 

 

 

 

 「すべての美しい馬/コーマック・マッカーシー」

 某日某所、アメリカ文学でも何か読もうかとごそごそと物色していた際に、このタイトルに目が留まった。とりあえず手に取ってあらすじを一瞥したりページをぺらぺらと捲ってみたりしたが、もちろん馬の写真集ではなく全くの小説であった。それにしても、妙に心惹かれるタイトルではないだろうか。是非読んでみたいと感じた。しかし、俺はそういうときには一旦距離を取ってしまう癖という不治の病を患っていて、そのときも購入することなくその場を後にすることにしたのだった。そして、その夜、唐突にポニーちゃんの記憶が甦ってきたという次第なのである。

 その後、マッカーシー原作の映画を二本鑑賞し、原作を一冊読み、改めてこの作家は当たりだと確信し、ついに購入に至った。今年の盆休みはすべての美しい馬を読んで過ごそうと思う。