アダルトビデオが、月間数百本とリリースされていた時代に話はさかのぼる。
![]()
当時はVHSビデオ販売数に合わせて、毎月多数の現場が組まれていた。
![]()
プロデューサーをはじめ、音声、照明、衣装、ヘアメイクと総勢30人にも及ぶ現場から、監督、女優、男優の3人で終える現場までその規模はピンからキリまであった。
![]()
さて、とある日に突然呼ばれた現場は3人の小規模であると聞いていた。
![]()
先ずは都内某宿泊ホテルに監督がチェックインして、女優、男優を迎え入れるのだ。
![]()
![]()
![]()
流れとしては、監督と女優のハ〇撮りからスタートすることが多い。
![]()
![]()
そしてその後、男優と女優の客観撮りを監督自ら撮影する。
![]()
![]()
![]()
しかしその日は珍しく監督ハ〇撮りは無く、客観のみの2絡みが予定されていた。
![]()
と言うことは、女優が2人という事。
![]()
![]()
シチュエーションを変えて、同じ女優で2絡み撮ることはあるがホテルで完結の場合ではあり得ない。
となると、前半後半の時間差で女優が入れ替わるパターンだ。
新人2人なのだろうか?
![]()
![]()
などと考えながら指定された部屋番号を探していた。
『1135』
11階の35号室である。
今回の仕事は、プライベートでも交流がある雑誌社Sさんから直接紹介された現場だ。
![]()
緊張が走る、、、気難しい監督だったらどうしよう、、、。
![]()
初対面の初現場で、いつも思うことだった。
ガチャ
解錠する音と共にドアが開いた。
「お待ちしてました~」
30代後半くらいであろうか?少し小太りで坊主頭の中年男性であった。
![]()
人当たりの良さそうな笑顔と、物腰が柔らかい言葉使いに一先ず安心した。
![]()
「今日は、2絡みで大変ですが頑張って下さいね~」
![]()
やっぱり、
でも
優しい。
![]()
既に到着していた女優は、シャワーを浴び終えて自メイクに取り掛かっていた。
![]()
おっと、待たせてはイカン!
![]()
早速シャワーを浴びて身支度をしようとする俺に監督は
「冷蔵庫にお茶も入ってるから、一服してからゆっくりでいいですよ~」
![]()
気を遣ってくれる。
やっぱり
優しい、、、。
良かった。
![]()
現場の雰囲気は、その時の監督によって変わる。
![]()
![]()
![]()
ギスギスした物言いだと、現場に緊張感が漂う。
![]()
良い物づくりをする職人気質の人に多いパターンだ。
ある意味、真剣な熱意から入り込んでしまうものだろう。
![]()
悪気は無いのだから、仕方ない。
しかし
男優としてはメンタルにおける問題が大きい仕事だけに、終始和やかに終えたいのが理想だ。
![]()
そう考えると、今日は実にやりやすい現場なのだろう。
![]()
Sさんに感謝!
< イイッテコトヨー
ガチャ
シャワーを終えて戻ると、照明も組まれ、監督はカメラチェックをしていた。
「じゃあ、紹介するね!男優のTAKA君!そしてこちらが女優の◯◯ちゃん!」
![]()
よろしくお願いしまーす!
![]()
![]()
メイクが施され私服に着替えた◯◯ちゃんは、黒髪でタイトスカートが似合う清楚系の美人だった。
![]()
台本は敢えて無いが、営業マンの彼氏と保険外交員の彼女が外回りの最中、落ち合ってホテルにしけ込む様子を隠し撮〇するストーリー。
![]()
要するにカメラを持つ煩しさも無く、その都度監督が映りやすい位置にカメラを移動してくれるのだ。
![]()
俺はただ、薄暗い部屋でOL風に扮した女優とエ〇チを自由にヤルだけの仕事。
![]()
う~ん
なんて、素晴らしい~
![]()
もしかしたら、そのパターンが男優としてはストレスフリーで、気持ち的に一番楽なのかも知れない。
![]()
予め用意していたスーツに着替えると、先ずは外から入室するシーンを撮る。
(営業マン姿のTAKA)
室内でカメラを構えた監督が、中慎ましく入ってくる2人を待ち構えるのだ。
![]()
ガチャ
ドアが閉まるや否や、込み上げた欲望を爆発させるように2人は互いの身体を弄る。
激しいディープキス
ジャケットを脱がし、ブラウスのボタンに手をかけた。
第一ボタン第二ボタンと外れ、色鮮やかな下着と胸の膨らみが現れてきた。
![]()
もう片方の手は、彼女のタイトスカートの裾を握り、ゆっくりとたくし上げてゆく。
首筋に激しいキス
一白置いて
「ちょっ、、ちょっと、、待って、、シャワー浴びたい、、」
![]()
彼女の台詞で冒頭のシーンが終わるのだった。
所変わって、次のシーンからはベッドの上である。
予めシャワーを浴びている2人は、ホテルのガウンに着替えるだけだった。
「カメラ位置を移動しますねー」
![]()
監督が証明とカメラをベッド中心の画角に合わせて移動させていた。
「よしOK!ここからはノンストップだから、ちょっと私はトイレを済まします。
お茶でも飲んで、2人で次の流れを話しててね!」
![]()
そう言うと監督は、トイレへと入っていった。
、、、、、。
「監督さんっていい人ですよねー。私にも色々気を遣ってくれて。」
![]()
バスローブ姿でベッドの上、正座している彼女が呟いた。
彼女も毎度現場入りする度に、考える心配の一つだと言う。
やはり人間合う合わないがある。
ましてこの業界、一癖も二癖もある人間の集まりだ。
![]()
主役である女優は、特に重要視する問題なのだろう。
、、、それにしても、、、
![]()
、、、遅い、、、
![]()
、、、トイレ、、、
、、、長過ぎ、、、
![]()
ガタンッ!!!
トイレから大きな物音がした。
と同時に
「ウウォォーーー!!!」
おっ、雄叫び????
![]()
![]()
![]()
「ヨォーーーーシ!!!」
何?何?
![]()
![]()
![]()
何の気合??
![]()
![]()
![]()
ガチャ!!バーンッ!!!
勢いよくドアが開いた。
![]()
「さぁ!やるぞー!!」
![]()
明らかに表情が違う。
![]()
目は血走り、額に汗を滲ませていた。
![]()
トイレでいったい何が??
![]()
「なにグズグスしてんだ!さぁ、始めるぞ!!」
![]()
![]()
そう言うと設置しておいたカメラを取って構えた。
あれ?盗撮じゃないの?
![]()
「早く!脱がせて!すぐに勃たせてヤルんだよ!」
![]()
えっ??
いやいやー
![]()
なになになにー
急かされてもー
![]()
設定無視だしー
![]()
「勃たないの?ねぇ?男優さん呼んでるのに?どーなってんのよ!!」
![]()
畳みかけてくる
めちゃくちゃだなー
![]()
なんなんだこれ?
![]()
それはもう全くの別人だった。
まるで、ジキルとハイド
いや、これこそ
二重人格???
ベッドの上この変貌に彼女は、ただただ怯えていた。
俺は呆気にとらわれ、その場でボーッとしていた。
![]()
「もう、役に立たないならいいよ!俺が男優をやる!
君はもう帰りなよ!ギャラ泥棒!」
![]()
![]()
![]()
尚も急かす監督の態度に、些か怒りが込み上げてきた。
![]()
このクソ野郎
ぶん殴ってやろうかな。
![]()
しかし、業界でのイザコザは噂として直ぐに拡がる。
![]()
ギャラは支払ってくれると言うし、黙ってさっさとこの場を去りたい気持ちになっていた。
![]()
不本意ではあったが、怯えて縮こまる女優と変貌してしまった監督を残してその場を後にした、、、。
![]()
まるでキツネにつままれた様な気持ちだった。
その後、あの現場はどうなったのだろうか、、、。
知る由もなかった。
![]()
そんなことがあってから、早数ヶ月が過ぎようとしていた。
忙しさの中、そんな出来事を忘れかけていたある日
あの監督の噂を耳にした。
それは、住んでいたマンションの部屋もそのまま
忽然と姿を消したらしい。
まるで、神隠しにでもあったかのように、、、。
元々、借金苦で製作費を持ち逃げ、更には女優に手を出すなど業界のタブーを犯していたと聞いた。
会社のルール
社会のルール
もちろん、この業界にもルールがあるのだ。
その後、彼の姿を見かけた人は誰一人いない
その存在すら忘れ去られていったのだった、、、、。
![]()
おわり

