この業界に身を置いている理由は、人それぞれだ。
俺のように借金返済の為に身を置く者。
この世界が大好きで門を叩いた者。
だが監督を務める人は一風変わっており、その全てではない。
映画や舞台、映像作品が好きで大きな野望を抱えていたりするのだ。
いずれは、大規模な撮影。
いずれはロードーショーに匹敵する作品を監督し、有名になりたいなど夢を抱えていたりする。
それは確かに簡単なことではない。
そこで、下積み時代に選んだ業界がアダルトであったりするのだ。
編集を考え、映像技術、進行が出来れば監督デビューのチャンスが多い。
AVを観て楽しむ側としては早送り【VHSビデオテープ】や、チャプター選びなどで飛ばしてしまうシーンこそ
ドラマ物を撮る監督はこだわりを持っている。
きっと演技が大好きで、エロシーンより重んじている場合があるのだ。
Ｎ監督もそのうちの一人だ。
ドラマは、朝が早い。
その日は、都内某所の一軒家スタジオだったが
待ち合わせは新宿SUBARUビル前に8時集合。
サラリーマンの通勤ラッシュに揉まれ、クタクタになって到着した。
肝心なストーリーの全貌はこうだ。
ーーーー
一軒家に住む奥さんが、旦那に内緒で風俗バイトを始める。
稼ぎのいいデリヘル嬢から更にソープ嬢へと落ちて行き、次第に家庭は崩壊してゆく
ーーーー
そんな内容だ。
なんと、その風俗店のオーナー役が俺だ。
企画物やハメ撮り物には、ほとんど台本などなく、
簡単にやることを示した流れだけが一枚のプリントに記載されている程度なのだが、
初のドラマ物として朝渡された台本を見て驚いた。。。
ぶっ、分厚い！！
めっちゃ台詞が長い！！
描写が細かい！！
マジかぁ～～
しかもラストシーンまで存在している役柄。
ドラマは、ワンシーン毎に撮って行くので非常に時間がかかる。
香盤表の終了時間を確認した、、、
（※香盤表とは、舞台などで、登場人物と出演者、出演シーン、出演時間などを対比させて表にしたもののことだ。）
午前2時？？？
テッペン【12時】回ってるじゃん？？
あくまで予定は予定である。
もし、時間が押したなら朝方もありうる。
地獄だ！！
演技や台詞が苦手な俺だから、そう思うのかも知れない。
「元々役者を目指していて、舞台だけでは食えないのでセクシー男優もやってる。」
そんな人からすればドラマ物は大好物なのだろう。
俺は、、
さっきから何度も何度も長い台詞を繰り返す。
が、しかし頭に入ってこない！
スキルもポテンシャルもない！
たぶん役柄のイメージで監督は、俺をキャスティングしたに違いない。
ヤバイ～
ヤバ過ぎる～
しかも、Ｎ監督は
スキンヘッドで強面。
噂では、台詞に細かく納得するまで何度もやり直しさせる一癖も二癖もある人物だ。
オワタw
おぼつかないまま俺の出番がやってきた。
事務所に来た奥さんを面接官するオーナーで、初のやり取りだ。
相手は、当時有名な熟女さんだった。
歳の頃、42歳くらいであろうか？
細身なのにGカップはあるスタイル抜群の人気ベテラン女優だ。
台詞噛んだり、忘れてたり足を引っ張るようなことがあったら機嫌を損ねるかも、、、嫌な予感が頭をよぎった。
いやいや。。
そんなビビった顔をしていてはダメだ！
仮にも俺の役は、反社会勢力に属する風俗経営者！
堂々と悪い顔しなければ、、、。
そこまで悪い顔してるとは思えないけど、、、
。。。
「その気になれば奥さんなら月に100万！ソープならもっとを約束しよう！」
それっぽく台詞を言ってみた。
「カーット！ダメダメ！
もっと視線を下から舐めるように見て、一拍置いてから台詞な！」
実に細かい
「それに、サングラスしててもいいけど
悪巧みを悟られないように、
含み笑顔で握り潰したような表情な！」
いや、それどんな表情だよ。。。
「お前が得意なやつだよ！」
見た目ほど悪くねーし！
得意じゃねー
こ、こんな顔か？
さ、さっきと変わらん。。。
リテイク6でやっとOKが出た。
先が思いやられる。
しかも次は、ついに奥さんと無理やり関係を迫るシーン。
カメラは定点。いわゆる隠し撮りして、それをネタに金を強請る仕組みの大切なシーンだ。
さすが反社！
しかーし
そのシーンが始まるや否やＮ監督は、、
「じゃあ、俺は2、3時間寝るから助監に任せるよ！
TAKA 3体位くらいで適当にラスト顔射な！」
そう言って奥へ消えていった、、、。
へ？
おいおいおい！
マジかー
これは後にわかったのだが、ドラマ撮る監督あるあるだった。
台詞が入るドラマシーンにこだわり力を入れるが、エロシーンに興味が無い。
カメラ向けながら居眠りしてる監督もいるくらいだ。
いやいやいや～
むしろ、そこ大事なシーンだから！
しかしながら、それも仕事である。
演技力や雰囲気を持っていて、監督に刺さらなければキャスティングされ無いのだ。
そう、
理不尽ではあるがセクシー男優をやって行く上で、
演技力が不可欠であるのだと思い知らされた一日であった、、、。
おわり