前回 [学振について(i)] の内容は、3回申請してきた中で色々な方の申請書を見るうち、結局大事なのは「自分の言葉で書くこと」なのではないか、でもそれはかなり難しく、最初の2回は不採用だったというおはなし。

 

ここではいい加減に(お待ちかねの?)「書き方」の話をします。

 

実は今年から大きくフォーマットが変わりました。

ただ前半の研究計画のところ(以後「本体」と呼びます)は、よくよくみれば「枠がなくなった+何をどこに書くのかが移動した」だけな気がします。

(なんかわかった気になってる(?)若手研究者ら(?)がtwitterで騒いでるのを見ましたけど、なんでそんなに騒ぐのか正直あんまりわかりませんでしたね...)

一方、後半に「研究遂行力の自己分析」という項目ができ、従来のように単に実績を羅列するだけではだめということに。

(魂胆はわかりませんけど、たぶん実績をただ出せるだけの人間ではなく、人物として研究者に適した人を選びたいということなんだと思います。分野・研究室によってはセカンド含めるとD2で10本くらい論文に名前載っちゃうなんてこともありますからね。)

 

それはさておき。

 

先述の通りこの時点では自分のやりたいことがはっきりしていたので筆が止まりまくる、なんてことはなかったので、結構多くの人に見てもらえました。

去年は先生3人(教授、准教授、助教)と同級生(DC1)、先輩(DC2)2人くらいだった気がしますが、今年はその倍(約10人)は見てもらった気がします。

私は化学系の中でも理論計算系なんですが、化学>基礎物理化学関連(だったかな?)で出すつもりだったので、実験系の研究室の友達、別の研究室の助教の方にも見てもらって、理論計算だけどあくまでも化学を発展させる、を意識しました。

ちなみに分野内に限った話ですけど、理論化学なら数物系科学で出してもいけるみたいです。(知り合いで2人知っています。)

 

よく言われることですが、申請書はできるだけたくさんの人に見てもらうべきです。

1人に5回より、5人から1回ずつのほうが絶対効果的です。

というのも、(もちろん共通点もありますが)全員違う指摘をしてくださったからです。

本当にありがたかったですね。ご縁に恵まれたことに感謝。

あの人に見てもらったんだから絶対良い報告をしたい!というモチヴェーションにもなりましたし。

 

では各項目別で。

 

(1) 研究の位置づけ

特別研究員として取り組む研究の位置づけについて、当該分野の状況や課題等の背景、並びに本研究計画の着想に至った経緯も含めて記入 してください。

 

この項目は1ページあるので私は

(1)-1 当該分野の状況や課題等の背景

(1)-2 本研究計画の着想に至った経緯

にわけて書きました。

指示はありませんでしたが、一番上に「研究題目」「目的」も書きました。

(なので目的は次ページの頭と合わせて2回書いた)

 

自分が理論の研究室にいるからかもしれませんが、何度も指摘されたのが

「ロジックがおかしい」

でした。

なぜその研究をする必要があるのか、についての論理が飛躍

しているということです。

 

これは2つの理由があると思っていて、

 ・自分の中では論理がつながっているが、それは自分の中で常識になってしまっているだけで、一般的には自明ではない

 ・そもそも勉強不足、説明不足

です。

後者は自分で勉強してなんとか埋めてくださいとしか言いようがない(とはいえどこのロジックが繋がらないと指摘してもらえば、やることは結構明確なので意外と単純作業で論理を再構築できると思います)んですけど、前者はなかなか自分では気づきにくいものです。

 

例えば研究室全体で何か一つのテーマを扱っている場合、申請書もそのテーマで書くことになると思いますが、昔からそのテーマをやってきたのでその続きでそのテーマに注目します、みたいになってしまうと「ああこの人は教授から降って来たテーマをやらされてるだけで特に意思(オリジナリティ)はないんだな」という印象を与えます。

(しかもこういうケースだと研究室が有名であるほどネガティヴに働きやすいので要注意です。)

 

実際に申請書や論文を読んでみるとわかるのですが、頭から読んで開口一番「XXXを解明するのは重要である」とか言われても「まあそらわからんもんは解明しといたほうがいいやろうけど、なんで数あるわからんことの中からXXXに注目しようと思うんかなあ」て思うでしょう。(ね、確かに論理が飛躍してるでしょ?)

 

ちなみにこのブログ自体も、なぜ研究の時間を割いてまで書こうと思ったのか、という理由について、

申請3回目で内定した

-->多くの方にお世話になったと実感した

-->教わったこと、自分で考えたことを発信したい

というロジックが背景にあります。

 

もちろんド頭はクリアできても、途中で論理が滑らかに繋がらないと、そのあとにどれだけいいことが書かれていてもあんまり読む気が起きない & そもそも説得力のない文章になってしまいます。

(このブログはどうなのでしょうか...)

 

この項目は申請書の「顔」なので、誰もが

「それは解くべき良い問題だね」

「この研究は面白そうだ」

と思ってくれるような論理展開を目指して、最も時間をかけて推敲すべきと思います。

実際、(1)を制することができる人はたぶん後ろもうまくかけると思います。

 

個人的には、昔の(1)の項目は「現在までの(自分の)研究状況」で、世界の動向を書くわけではなかったので、頭に分野全体の状況をかけるようになって申請書という文章としては体裁の良いものになったのではと思っています。

 

ちなみに、小手先のテクニックかもしれませんが、(1)-2で自分の研究、論文のアピールをしました。

これまでの研究とこれからの研究が乖離しているという人も多いと思うのでそういう人には当てはまらないですが、私はこれまでの話とこれからの話が連続してるので、自分のこれまでの研究は今後の研究を着想する経緯になりうると考えたからです。

また、業績アピールはかなり最後の方になります。普通に考えて前から読んで行くので、この時点である程度遂行能力がある奴なんだな、と思わせておいたほうがいいだろうというのもありました。

(通すことを本気で考えるとトップ層に入らないといけないので、1ページ読んだだけでこれは採用、と決めてもらえるくらいじゃないといけないですし。)

 

あともう一つテクニックですけど、(1)-1、(1)-2で一番言いたいことを端的に理解できるような図を入れました(1ページ目で合計2枚)。

図は、下線を引くとか太字にするとかよりも視覚的インパクトが強いですから、本当に重要なことは図だけで伝わるようにしました。

(とか言う割にはこのブログがそうなってないやんとか言わないで。笑)

誤読を防ぐという意味合いもあるし。

 

あ、図の話になったので図についても少し心がけたことを。

まず、図はPowerpointで作ってそのスクリーンショットとかで十分です。もちろん白黒で。

そして、自分が伝えたい意味だけが(必要十分に)伝わる図にするべきです。

(写真とかだとやむを得ない場合もあると思いますができるだけ不要な情報は削るべき)

特に、論文の図をそのまま、というのはやめといたほうがいいと思います(そう指導されました)。

(これについては、人の成果を流用してるとか図を作るのをサボってるという印象を与えかねないのと、勝手に改変したりすると最悪著作権的な問題とかも起こりかねないというのもあります)

 

[追記]

何かの理由を考えまくるって研究課題発見に役立つと思います。なんでXXXは解明できてないのか、とか、なんでXXXという現状があるのか、とか、なんでXXXをすることに価値があると思うのか、など。

一般の特に研究を生業としていない人に、研究ってなにすんの、て言われた時よく例えるのが「東京大阪間をいかにして速く移動できるか」という究極的な課題にどうタックルするか、です。

(別に東京大阪でなく、大阪京都とかでもOK)

まず、誰もが東京大阪間を速く移動したいと思う。

とはいえ、みんなそう思うだろうからこの課題に取り組む、というのはやや思考停止な印象を受けると思います。

速く移動したい理由は様々であるはずで、例えば新鮮な食材が腐るから、とかなら、別に速く移動できなくても冷凍技術とか食材を新鮮に保ち続ける技術を開発すればいいのでは、とも考えられます。

そうは言ったものの、現実はゼロから百まで書くわけにもいかない(そうしちゃうのもある意味思考停止だし紙面は有限)のでコンセンサスが得られそうなところでやめとくべきだと思います。

で、とりあえず速く移動したい、はまあコンセンサスが得られるとして、じゃあどういう手段に着目するの?という話で、例えば新幹線にこだわるなら「新幹線は飛行機に比べて遅いが墜落の心配がない分安全性が高いから」とかそれなりの理由づけができますし、飛行機にこだわるなら「鉄道に比べて劇的に速くできる可能性を秘めているから」とか。

もし、「東京大阪間を速く移動できる手段が必要とされている。新幹線は従来XXXという課題があり...」みたいなイントロを飛行機の専門家が見たら「理由もなく新幹線に限定するだなんてけしからん」みたいに思われるかもしれません。(もちろん「速く移動したい-->新幹線に注目」という論理が飛躍してるから、です。)

 

私は鉄道が好きなので新幹線に限って話をすると、じゃあ「速く移動したい」(=現状早くは移動できていない)とはどういう意味なのか、となります。

つまり、仮に現状が3時間だとして、なんで10分ではないの?、なのか、なんで2時間59分じゃないの?なのか、という話です。要はどう問題設定するか、という話です。

(逆になんで4時間はなく3時間なの?ということを振り返ってみるのも有益だと思います)

もし「なんで2時間59分じゃないの?」で問題設定するなら、時刻表を細かく調べ上げて、例えば、駅でドアの開閉に時間がかかっているということに気づいたとしたら、速く開閉できるドアを開発すれば良いはずだ、と。そして、じゃあなんで今のドアは速く開閉できないのか、という課題にすり替わります。そしてドアの開閉技術について調べ、最終的にどこが課題の源流なのか、までいければ解決方策は自然と浮かんでくると思います。

 

もちろん「こうしたらいいんじゃないか」というアイデアがぽっと湧いてきて、なんでそれは良いと思ったのか、を、考えまくるのもありだと思います。(私はこっちでした。が、思考実験をやるうち、先ほどのアプローチでも同じアイデアにたどり着けました)

 

個人的には、この「理由を考えまくる思考」が本能的にできるようになったあたりから、研究がかなり進捗するようになった気がします。

[追記終わり]

 

 

(2) 研究目的・内容等

1 特別研究員として取り組む研究計画における研究目的、研究方法、研究内容について記入してください。
2 どのような計画で、何を、どこまで明らかにしようとするのか、具体的に記入してください。
3 研究の特色・独創的な点(先行研究等との比較、本研究の完成時に予想されるインパクト、将来の見通し等)にも触れて記入してくだ
さい。
 

*4,5は省いてます。

 

まずここで言われたのは

「小さく(=自分の分野限定に)まとまりすぎている」

ということでした。

 

特に実験系の研究室の人からは、もっと実験系にもメリットがあるということをアピールした方がいいと指摘されました。

今のは私に限った話ですけど、結局、自分のやりたいことを、読み手の先生方(狭い分野とはいえ自分とドンピシャの分野の人はいない)が共通して解明してほしいと思いそうなことを解明する、というようにアピールするのがポイントかな、と思います。

同じような意味ですが、テクニカルな(自分の分野の都合)ことはあまり書かないほうがいいと思います。

単純に伝わらない(読み飛ばされる)のと、その分野しか見ていないような印象を与えます。

 

2の項目は「具体性」が重要です。

例えば「単純な系に適用する」とかだと、水素1分子なのかな、とか、水1000分子なのかな、とか意味が曖昧になります。

水素なら水素、CO2ならCO2、という風にできるだけ何やるのかが明確になるようにするといいと思います。

それから、できそうもないキャッチーなことを掲げる(いわゆる「絵に描いた餅」)のは、書いてる本人は気持ちいいかもしれませんが、お勧めしません。たぶんバレます。

 

3はいきなり「本研究はXXXなので独創的」とか言われてもわからないので、「先行研究はYYYだが本研究はXXXなので」と、やはりここも具体的に(というか客観的事実に基づいて)書くことをお勧めします。

(先行研究の話は1で書いてるんじゃないの?と思うかもしれませんが、ページ変わればたぶん忘れます。情報は見たいところにないと意味がありません)

当たり前ですけど、本当に独創的と言えそうもないものを独創的とか言おうとしても、論理が崩壊してると一瞬でバレると思います。

 

 

そしてやはり図を入れました。

私の場合は

・どんな新しい理論を開発するのか(1の研究方法に対応)

・その理論で何を解明するのか(1の研究内容、2、3のインパクト、見通しに対応)

・その理論および新たに解明される(であろう)ことは従来の研究と比べてどう優れているのか(3の比較に対応)

の3枚。

理由はさっきと同じです。この3枚だけ見れば、文字は読まなくてもだいたいわかった気になりそうでしょ?

なんかここまで書いて思ったけど、各小項目それぞれに対応する図を入れるのは結構得策かもしれません。

 

あ、研究計画での図と言えば、私はガントチャート(いつまでにどれくらいのことやるか、の図)は、並列でやることの種類が多い場合(特に生物系?)を除いてあまりお勧めしません。

理由は

・面積の割に情報量少ない (+図の性質上余白多くなる)

・時期を伝える意義がそもそも小さいと思う

・落ちた申請書でよく見る (書くことなくて埋めるために使ったのかと邪推される?)

からです。

 

 

あと些細なことですけど、項目は全部書いた方がいいと思います。

つまり、

 

(2)-1 XXXXX...

 

ではなく、

 

(2)-1 研究目的、研究方法、研究内容

目的: XXX

方法: YYY

内容: ZZZ

 

という風に、ということです。

これ、両方やってみてください。思ってるより印象変わりますよ。笑

どこに何が書いてあるか、のわかりやすさが段違いです。

 

4の項目は「申請者が担当する部分はどこか」で、私の場合は「上記の研究計画は申請者が全て遂行する」で終わりでしたが、これも項目を分離させて書いた方がいいと思います。

 

5は「異なる研究機関において研究に従事することも計画しているか」で、私の場合は「計画なし」です。実験系の人で「測定器具などは全て揃えているので異なる機関に行く必要はない」と、単に計画なし、よりも論理的に書いてる人がいて、なんとなく親切な印象を受けました。

 

3.人権の保護及び法令等の遵守への対応

 

私の場合は「本研究は計算機を用いた研究であるため該当しない。」でした。

単に「該当しない。」でもいい(白紙の人も見たことある)んですけど、もしかしたらこの研究、(理論計算ではなく)実験すんの?みたいに思う人もいるかと思って、ちゃっかり「計算機を用いた研究であるため」をいれました。

こういうところでもちょっとずつ伝える。笑

 

 

4.【研究遂行力の自己分析】

本申請書記載の研究計画を含め、当該分野における(1)「研究に関する自身の強み」及び(2)「今後研究者として更なる発展のため必要と考えている要素」のそれぞれについて、これまで携わった研究活動における経験などを踏まえ、具体的に記入してください。

 

今年からできた項目。

(1)(2)共に、フォーマットでは主体性云々について、とあるので、それぞれ項目別に1項目5行程度で書きました。

あと、最後に業績等一覧をつけました。

 

ここでもやはり意識したのは「具体的に」ということでした。

具体的にすると、高評価になるかどうかは別としてとりあえずは伝わるので。

 

じゃあ具体的に教えてや、て突っ込まれそうなのでちょっとだけ。

 

X 学会では説得力をもって研究内容を伝えられるよう心がけてきた

O 学会では説得力をもって研究内容を伝えられるよう、予め質問を想定した予備的な計算も行うなど入念な準備を心がけてきた

 

X 専門であるXXX、YYYやZZZについて、深い知識を有している。

O 専門であるXXX、YYYやZZZについては、研究を進捗するのに必要な知識を必要なときに 仕入れるという効率化をしつつも、個々の式の導出や入念な文献調査を怠らないようにしている。

 

という感じに。

個人的には過去の自分のエピソードを書いて、このように私は優秀である、的な書き方がいいと思います。

 

ちなみに業績はファースト1本、セカンド1本、受賞2つ、資金獲得2つ、JASSO全額免除でした。

(これ、後で助教の先生と話した結果、かなり少ない方では、とのことでした)

 

 

5.【目指す研究者像等】

日本学術振興会特別研究員制度は、我が国の学術研究の将来を担う創造性に富んだ研究者の養成・確保に資することを目的としています。 この目的に鑑み、(1)「目指す研究者像」、(2)「目指す研究者像に向けて特別研究員の採用期間中に行う研究活動の位置づけ」を記入してく

ださい。

 

もうくどいですけど、やっぱり、具体的にどうなりたいのか、なぜそうなりたいのか、を論理的に書く、に尽きるんじゃないでしょうか。

私はそうしなかったですけど、具体的ということで実際の人名を出すのは1つだと思いますね。

 

ちなみに私は欄が余ったので、

「私はAAAという思いからBBBになりたい(がしたい)。これまでCCCをやって論文発表しており、本研究計画はDDDという内容であるが、いづれもBBBがしたいという思いから着想した」

という風に、ここでもちょっとだけ業績&研究内容アピールを入れちゃいました。

 

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以上、長かったですね。お読みいただきありがとうございます。

ここまで読んでもらったらわかると思いますけど、こんなの、自分で考えに考え抜いいたことじゃないと書けないですよね?

人から提案されて、とか、転がってる申請書から良さげな言い回しをつぎはぎして、とかではやっぱり違和感が残ると思います(言葉に必然性がない、という感じ?)。

 

最後になりますが、上に書いたのはこれまでに頂いてきたコメントのうち、思い出せることの中からさらに重要そう&役立ったものを絞ったものです。

これらのおかげで無事採用内定をいただけたわけです。

動機にも書いた通り、これはあくまで私が恵まれていたからであり、必ずしも私が優れているから、ではないと思っています。

これまでの内容は多くの人のご指導あってのものです。

ここまでの内容が、少しでも申請書執筆の助けになれば幸いです。

 

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余談ですが、ある程度自分の言葉で書けるようになると「こだわり」が生じてきました(こだわりがないという人もいるらしいですが、私はこだわるところはこだわり抜く性分です)。

内容はもちろんのこと、句読点、フォント、行間、画像は全てepsにする、など。

(フォントは

 

図のデザインについては

を参考にしました。)

(注: 別にこれに厳密に従わなくてもいいと思いますが全部ゴシック体とかだと見にくいのに加えてpdf変換ミスでもしたのかなと悪印象なのでお勧めしません)

 

ちなみにMinor rivisionも含めて最終稿は第69版でした。