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| 浅井氏 |
企業の持続的な成長にはグローバル化が不可欠とされる。“世界の工場”と称された中国が巨大な消費市場に変貌したように、新興国を中心とした市場でビジネスチャンスが広がりつつある。企業のビジネスを支えるITが、グローバル化で果たす役割も大きい。
しかし、IT基盤のグローバル展開では多くの難題が浮上する場合が少なくない。進出先で安定した業務システム環境を実現できるか、機密データのセキュリティをどう確保すべきか——これには現地の通信ネットワークの状況や、法規制、コンプライアンスといったさまざま事情が大きく影響する。グローバルビジネスを支えるITをどう実現すべきか。討論会の中から、グローバルビジネスを支えるIT基盤の条件、そしてその実現を担うIT部門やパートナー企業に求められる役割を探る。
●グローバルビジネスで求められるIT基盤
「新興国とはいえ、もはや日本や欧米で売れ残った商品を持っていけば売れるという市場ではない」——日経BP コンピュータネットワーク局 ネット事業プロデューサー 兼 日経コンピュータ編集プロデューサーの星野友彦氏は、新興国市場の現状をこのように話す。同氏によれば、日本企業が新興国市場への進出で先行する中国や韓国の企業に負けずにビジネスを展開するには、徹底した在庫管理によって現地の市場ニーズに合わせた商品を展開することが重要となる。
それを叶えるには、標準化されたシステムを進出先で迅速に構築できるかがカギを握るという。「標準化されたシステムで商品の在庫や売り上げ状況などの数字を世界規模で管理しなければ、どこかの市場で不良在庫の発生といった問題が起きかねない」(星野氏)
また、モデレーターを務めるITR シニア・アナリストの舘野真人氏は、「進出先で構築するシステムには、現地の人材が使いやすいものであるといった点も求められるのではないか」と提起する。これに対して星野氏は、2005年にASEAN諸国で統一した業務システムを2009年に日本にも導入した花王での取り組みを挙げて、「標準化と言っても、従来のように日本の視点で標準化したシステムを海外で構築するのではなく、世界中で運用できるように標準化したシステムを構築していくべきだ」と語った。
アイティメディア ITインダストリー事業部 エグゼクティブプロデューサーの浅井英二氏は、「グローバルビジネスを効率的に展開するには、拠点ごとの“横のネットワーク”を作ることも必要」との見解を加えた。企業の経営層とセミナーやディスカッションを行うことが多いという浅井氏は、事例を挙げながら具体的に説明した。
「建設機械メーカーの小松製作所では、かつて国内で作成した設計部品表を基に、日本がハブとなって世界の拠点で製造を行っていた。この仕組みでは各地で量産する際にタイムラグが発生し、改良を加えた場合も迅速に対応できないという課題があった。同社はこれを解決するために、設計の情報に世界中からアクセスできるデータベースを構築。日米で共同開発を進めたり、各製造拠点で量産を開始するまでの期間を短縮することに成功している」(浅井氏)
浅井氏によれば小松製作所での取り組みは、一見すると集中による効率化にも映るが、実際には分散化のアプローチであるという。つまり、設計情報のデータベースが世界共通のシステム基盤という役割を果たし、各製造拠点では拠点単位で製造に必要となる情報に転換して量産に入れる体制となっている。こうした仕組みによって、企業はグローバルビジネスを迅速に展開できるようになるという。
●難題を乗り越られる存在に
「業務システムの標準化」は、既にグローバル展開をしている企業が直面する大きな課題になっている。だが、これからグローバル展開をしようとする企業は、これ以外にも多くの課題に直面することになる。朝日インタラクティブ CNET Japan編集長の別井貴志氏は、「最近では数多くのソーシャルゲーム関連企業が海外進出を進めている。しかし、簡単ではないようだ」と話す。
「進出先の通信やネットワークの環境を十分に把握できないことや、現地顧客に対する適切なサポート方法が分からないといった課題を抱えている。自社だけで取り組むのは難しいのでベンダーやコンサルティング会社の協力を求めることになるが、“こういう課題をどこに相談すれば良いかすらも分からない”という声が頻繁に聞かれる」(別井氏)
このような企業が仮にクラウドサービスの利用を検討したとしても、その理由は「安そうだから」といった全く戦略性のないケースが散見されるという。「失敗から学んでいくという考え方もあるが、実際には失敗して海外から撤退したケースが山ほどある」と指摘している。
舘野氏も、実際に現地に赴いて初めてインフラ事情の悪さを知ったという話をITRの顧客企業から聞く機会が多いという。「海外のインフラ事情を日本で収集することが難しいのではないか」というのが同氏の見方だ。
「これはメディアにとって反省すべき点になる」と、アスキー・メディアワークス TECH.ASCII.jp編集長の大谷イビサ氏は話した。同氏によれば、2001年に発生した米国での同時多発テロを契機に、メディアによる海外取材の機会が大幅に減っている。「われわれメディアが海外の事情を現地から十分に発信できていない」という。
海外進出を目指す企業は、やはり自らの手で情報を集めていくべきか——。この点について、「パートナーとなるICTベンダーの存在に注目してはどうか」と星野氏が提起した。
「通信インフラでは、進出先の“ラストワンマイル”のような部分を現地の通信事業者に任せざるを得なくなるだろう。例えば、ベトナムの地方都市なら何日間で通信回線が開通できるかといったことは、実際に現地にいないと誰にも分からない。グローバルビジネスのICTパートナーには、そういった豊富なノウハウが求められるだろう」(星野氏)
これから海外市場に進出していくという企業も、進出先での通信環境という課題に直面することになるだろう。こうした課題は氷山の一角にすぎないだろうというのが、浅井氏 の見方だ。アジアを中心に海外進出をしている20社ほどの企業とディスカッションを交わし、「ラストワンマイルの問題に加えて、相手国の法規制への対応の難しいことや、現地でサポートしてくれる人材の不足といったトラブルにも直面している」(浅井氏)という実情が明らかになった。
海外進出を目指す企業がこうしたITに関わる課題を乗り越えるには、グローバルICTパートナーとの関係作りが重要になってくる。舘野氏は、「その前に、企業のグローバル化戦略の初期段階で、IT部門が経営層にITの要件を積極的に発信していくべきではないだろうか」と提起している。
しかし実際には、海外拠点の立地が決まり、その他のさまざまな条件が決定した後になって、ようやくシステム構築の話が出てくる事例が多いという。「IT部門は経営者のアドバイザーとしての役割をもっと果たすべきではないか」(舘野氏)との見解に、別井氏も「経営戦略の中に入り、“このシステムをこういう理由だからこう作ります”と発言できるIT部門が必要だ」と意見を重ねた。
●IT部門に求められる姿、パートナーの役割
それでは、舘野氏や星野氏が提起したような役割をIT部門が実践しているグローバル企業では、どのような取り組みが行われているのだろうか。浅井氏が米General Electric(GE)の事例を紹介した。 浅井氏によれば、GEでは、情報システム部門の役割を「経営戦略をITに翻訳すること」と定義し、ビジネスプロセスのすべてに関わることを求められており、そのためのリーダー人材育成プログラムも充実しているという。
「GEには2年間のITリーダー育成プログラムがある。6カ月ごとに世界中の事業部門のプロジェクトを担当させ、その期間内に成果を出させるというもので、次の10年を担うスキルをビジネスの現場で学ぶものだ」(浅井氏)
GEの事例は、IT部門に求められる役割のモデルケースのひとつになるようだ。だが浅井氏は、GEが積極的に外部パートナーを活用していることも挙げ、パートナーの重要性を指摘する。前述のように進出先での拠点構築の際に人材不足という課題に直面するケースが少なくない。IT部門も例外ではなく、現地でのIT基盤の構築をサポートしてくれるパートナーの存在が不可欠になる。
この点について大谷氏は、「これまでネットワークは通信事業者に、データセンターは別の事業者に、というように分野ごとに異なるパートナーが支援する仕組みだった。しかしユーザー企業としては、できれば1つのパートナーで多くを支援してくれる方がありがたいと感じている。今後、パートナーには“総合力”が求められてくるのではないか」と述べた。
グローバルICTパートナーの実力を知るには、進出先の国や地域の数、サポートしている言語の数といった指標が分かりやすいだろう。大谷氏は、そうした数字よりも、実際にどの程度までサポートをしてくれるのかといった“中身”こそが、ユーザー企業にとって重要だと話す。「例えば、進出先が北米と韓国だけだとしても、そこでは非常に手厚いサポートを提供している、現地の状況をよく理解してコンサルティングをしてくれるといったパートナーが大切な存在になるだろう」(大谷氏)
ユーザー企業がグローバルICTパートナーに求めるのは、進出する国や地域に関する豊富な情報や、そこでの課題を乗り越えるためのノウハウ、それらを活用したサポートであるようだ。
また星野氏は、このように考えるユーザー企業の中には必ずしもグローバルICTパートナーが日系企業である必要性はないとみる動きが出るかもしれないと予想する。「単にネットワークやデータセンター、クラウドサービスを提供するだけではなく、ユーザー企業のビジネスを変革させてくれるという役割がパートナーには求められるだろう」(星野氏)
日本企業のグローバル化が今後ますます加速していくとみられている。舘野氏は、IT部門やパートナーが自らの役割を果たしていく上で、日本という枠だけにこだわらず、世界に視野を広げていくことが大切だと語った。
IT系メディアによる「メディア横断討論会」は10月28日にも開催され、読者も参加できる。今回の内容を踏まえ、企業のグローバル化とITの役割についてより広い視点で議論が尽くされることになるだろう。会場に足を運び、各メディアの“生”の見解をぜひ聞いていただきたい。
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