|
|
| 電力会社E.ONのブース |
【画像:屋根に太陽電池が敷かれた、MAGE SUNOVATION社のEV用ガレージ、ほか】
それでは、EV社会の到来を前に電力会社はいったいどのようなビジョンを描いているのだろう。この9月に開催されたフランクフルト国際モーターショーでドイツの大手電力会社E.ON(エー・オン)を取材した。
●サービスとしての充電ボックス
充電ボックスでの売電が商売にならない理由は採算性にある。
道沿いや駐車場の充電ボックス設置には8~10万ユーロ(820万~1030万円)の費用がかかる。現在普及している230V三相交流の充電ボックスだと小型EVを満タン充電するのに5~6時間ほどかかるが、それで得られる売電収入は5ユーロ程度、収益にすればわずか数十セント。充電ボックスを1カ所に集め、ガソリンスタンドならぬ「充電スタンド」を建てたとしても収益が少ないことは同じで、数分間の給油で数十ユーロを売り上げるガソリンや軽油のようなわけにはいかない。
ただし、充電効率の優れた高速直流充電なら可能性はありそうだ。
「日本のシャデモ方式の高速充電ならば商売になるかもしれません。15分で80%の急速充電ができるなら実用的です。確か『お茶を飲んでいる間に充電できる』という日本語ですよね」(E.ON担当者)
担当者が言いたかったのはCHAdeMO(チャデモ)方式のこと。これは日本の急速充電インフラ普及を推進するため、自動車会社、充電器メーカーおよびこれを支援する企業・行政などによって組織されたCHAdeMO協議会が標準規格として提案する急速充電器の商標名である。「CHArge de MOve=動く、進むためのチャージ」「de=電気」また「クルマの充電中にお茶でもいかがですか」の3つの意味を含んでいる。昨今、世界でさまざまな日本の単語が使われているが、EV業界ではこんな言葉も通じるようになった。
さて、現段階では充電ボックスは商売にならないということだが、実際には街中で充電ボックスを見かけることがある。また、EV社会の未来を描いたE.ONのPRビデオにも多数登場するのだが、このギャップはどう理解すればよいのか。
「PRビデオをよく見ていただければ分かるのですが、充電ボックスの設置を想定しているのは、ショッピングセンターの駐車場や社員駐車場などで、商売ではなくサービスとしての設置です」(E.ON担当者)
ショッピングセンターなら買い物客のサービス用。環境関連企業ならば社員駐車場や顧客駐車場への設置が考えられる。また、カーシェアリングであれば街中に充電ボックスを設置する必要があるはずだ。このように充電ボックスの活躍する場は多いが、今のところ売電で商売することは想定していない。
●家庭で安全充電
それでは電力会社はEVをどのようにビジネスと結び付けるのか。
「自宅のガレージで、安心して充電できる設備の普及をメインに考えています。家庭用のコンセント(230V交流)をそのまま使うことも可能ですが、安全性の観点からドイツ自動車工業会(VDA)は推奨していません。E.ONはさまざまな車種の充電プロトコルに対応できるガレージ用充電ボックスを開発し、この10月から販売と設置サービスを始めます」(E.ON担当者)
E.ONがガレージ用充電ボックスに力を入れる理由は他にもある。同社はEV充電事業の開始を前に2009年からミュンヘン市でBMWグループと共同の社会実験を行っている。100台のMINI-E(MINIのEV仕様)をモニターに利用してもらい、EVの利用や充電について実地データを得るのが目的だ。
その結果明らかになったのは、EVを通勤で利用するモニターは職場(あるいは職場近く)の充電ボックス利用が非常に少ないということ。初めのうちは頻繁に利用するのだが、徐々になくなる。というのも、自宅のガレージで一晩充電すれば通勤の行き帰り+買い物+日常の用事といった1日の走行には十分なので、あえて職場で充電しななくてもいいのだ。
充電するには重いコネクタの抜き差しが必要だから毎回2~3分はかかる。たいした手間でないとしても毎日となれば面倒だし、あえてやらなくていいのならば当然そうなる。職場駐車場での充電が無料なら魅力的だが、それでも1日数十セント得をするだけなので、倹約家でなければ長くは続きそうにない。
●スマートハウスとの融合
E.ONがガレージ用充電ボックス普及の先に描くビジョンは、EVとスマートハウスの融合だ。ITや新たな技術を用いて、再生可能エネルギー電力を最適に利用できる社会システムがスマートグリッド。そして、スマートグリッドに最適化した住宅やビルがスマートハウスと呼ばれるもの。
融合を具体的にイメージすると次のようになる。
通常はスマートハウスからEVに電力を送る(充電する)のだが、例えば風が弱く風力発電量が少ない時は逆にEVの電力をスマートハウスで使用する。社会全体の発電と電力消費のバランスを最適化できるだけでなく、電力価格の高い時間帯に「EVの電力を売電」すれば、スマートハウスの住人はもうけることができる。
E.ONは2008年から検討を始め、2011年から20台のEVを用いた実験を行っている。担当者の話によると、EVメーカーはEVをスマートハウスの電源として使用することに及び腰だという。なぜなら蓄電池の寿命が縮むことを心配しているのだ。
スマートハウスとの融合は1つの例だが、EVを巡っては次々と新たなアイデアが生まれその実証実験が続けられている。問題や課題も山積しているが、実用化は秒読み段階に入ったといって間違いない。
【松田雅央,Business Media 誠】
「この記事の著作権はBusiness Media 誠に帰属します。」