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昔々、人里離れたある山に、八つの尻尾を持つ化け狐がおった。
尻尾の数は強い妖力の証。
その狐は、人が何十回と命終しても足りないくらいの長い年月を積んでようやくもう少しで、九つ目の尻尾を得られるところだった。
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九尾となった狐は、天狐と呼ばれ千里先のことを見通す力を持ち、妖狐たちを束ねる頭領となるという。
深い慈愛と、徳と、威厳を称えたその八尾の狐は、他の妖狐からの信頼も厚く、次の頭領となることを誰もが疑わなかった。
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ある日、八尾の狐は人間の村近くの山にこもり、いつものように研鑽に励んでいた。すると、藪の間から狸が出てきて、八尾の狐をからかった。
『もうすぐ頭領になるそうだが、お前が妖力を使うところを見たことがない。その尻尾は飾りか?』
すると八尾の狐はこう答えた。
『強い力と言うのは、軽々しく扱ってはいけないものだ。』
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狸は鬼の首を取ったように言った。
『お前の尻尾は飾りものだ腰抜けめ。お前は頭領になりたいから、妖力がないことを隠しているんだろう!』
そこで八尾の狐は、ひとつ思い知らせてやろうと、雨雲を呼び寄せた。すぐに大嵐となり、雷鳴がとどろき、雨は土を砕ぎ岩を押し流した。
突然の大雨に川は氾濫し、山間にあった村になだれ込み家々が押し流され、多くの人間が巻き込まれた。
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八尾の狐は、大いに嘆き悲しみ軽率な自分を責めた。
そして人間達の屍の中に一人の子供を見つけると、その子に命を分け与えてやった。
力を分けた八尾の狐の尻尾は、四つになってしまった。
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狐の頭領は、四尾となった狐を強く叱責すると、彼の次期頭領としての座をはく奪してしまった。
四尾の狐は、一族の面汚しだとして仲間たちから追放されると人里近くの山に住み着いた。
そして、再び川で人が命を落とすことが無いよう、川の守り神となったという。