光文社出版、井沢元彦著 小説『日本』人民共和国

 

 

2人の新聞記者が、記事のため静岡にある原子力発電所『スーパーみらい1号』を取材していると、

突如起きた地震、それによって引き起こされた大津波により原発は大爆発します。

その大爆発に巻き込まれた2人が、異世界の日本に転移してしまうというお話です。

 

 

 

目を覚ましてからしばらく、事態を把握していない2人ですが、徐々に恐ろしい事実に気が付き始めます。

■説明不要のミスタープロ野球で、『長嶋茂雄』と呼ばれていた人物が異世界の日本では、人民体育大会に出場しているチーム『大鷲組』に所属する『長嶋茂太』という人物であること。

■英語、『チーム』や『インタビュー』などと言った言葉が通じず、掛け声や挨拶がすべてロシア語になっていること。

■西暦に換算すると1995年であるが、西暦や旧元号が廃止され革命歴を用いている。

 

転移した2人は人民委員会に逮捕され危うく処刑されかけますが、その刹那、今度は10年前の1985年に転移。

ある研究所の中で再び目を覚ました2人は、寺尾博士という人物に出会います。

 

2人がこの世界の住人でないことを半信半疑ながらも理解した寺尾博士は、異世界の日本がどのような道を辿ったのか、

何が起きたのかを2人に説明してくれます。

日本は日米安保を破棄した結果、共産主義革命が成就。もはや日本国ではなく、扶桑人民共和国と呼ばれている、と。

『あのとき、馬鹿な扇動者のおかげで、日本は選択を誤ってしまった。その結果、今はこのざまだ。国民は常に飢え、経済は停滞している』

寺尾博士に連れられ、2人は反革命組織に接触。コードネーム『バットマン』と呼ばれる人物から、さらに詳しくこの世界の歴史を聞きます。

 

1960年、日米安保の改定が迫っていた中、共産主義者は国民を先導し、純粋な青少年をだまし、国会を占拠。

来日したアメリカ大統領の秘書を殺害したハガチー事件で、アメリカは激怒し日本の国防から手を引いてしまいます。

その後、選挙で親ソ政権が樹立し、新政権の『要請』と日本人民の支援という口実の下、ソ連軍と北朝鮮軍が大挙して日本に進駐。

その過程で韓国も潰され、現在朝鮮半島には、『朝鮮国』という統一国家が存在している。

 

『あの頃の純真な青少年たちは、本当に安保を破棄すれば世界の平和が来ると思い込んでいたんだ。まったく馬鹿としか言いようがないな。』

 

『特に許せないのは、憲法学者ですよ。法律を学んだ者ならば当然のこととして、独立国にはその独立を守るための軍隊が必要だということは、当然の原理として知っているはずです。それなのに、彼らは日本国憲法こそ平和の礎などと主張して、日本の軍備を徹底的に罪悪視する方向に物事を持っていった。だからこそ、我々はソ連軍が上陸した時、何もできなかったんです。その前に牙を全部抜かれていましたからね。』

 

 

謎の人物、扶桑光(ふそう ひかる)という首領様が治める共産主義国家、扶桑人民共和国。

皇室は革命政府の襲撃を受け辛くもスイスに脱出していますが、20世紀も終わるころになりながら車に乗れるのは党関係者などのごく限られたエリート層のみ、人民円など紙屑も同然で、モノクロテレビが未だに高級品であり一般家庭への普及は夢のまた夢であること。

 

新聞記者2人は『これこそ、進歩的文化人が主張した理想の世界だ』と皮肉ります。

 

 

------------------

 

恐ろしい世界です。こんな日本は絶対に嫌ですね。

自由に発言できる、おなか一杯のごはんを食べれる、欲しいと思うものを大概手に入れることができる、と当たり前のことのありがたさを思い出すことができる気がします。

 

 

安保反対はの主張は、現代でも残っており、日本の軍事力に徹底的に反対し日本国憲法こそが平和を守るのだ、と

主張し続けています。

扶桑人民共和国に出てくるソ連軍を、『中国人民解放軍』に置き換えても、まったく違和感がありません。

 

さて、昔共産主義にかぶれ、または赤軍をやっていた勢力は公然と姿を消しましたが、一体どこへ消えたのでしょうね?

この主張をしている『一般市民』は、無関係なんでしょうか?