世間には見る者の心をドン底に突き落とすような後味の悪い映画が存在する。
しかし、その後味の悪さは妙に後を引く。
今回はそんな危険な魅力を孕んだ後味の悪い結末の日本映画をご紹介。
結末の内容に深く切り込むため、
物語のラスト(=ネタバレ部分)を記すので、
未見の方は注意していただきたい。
第1回。(文:村松健太郎)
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『それでもボクはやってない』(2007)
上映時間:143分
監督:周防正行
脚本:周防正行
【作品内容】
周防正行監督にとっては大ヒットし、ハリウッドリメイクもされた『Shall we ダンス?』以来11年ぶりとなった作品。痴漢冤罪事件に巻き込まれた若者を主人公にした和製法廷劇の傑作。
【注目ポイント】
国内外で大ヒットを記録し、賞レースも賑わした『Shall we ダンス?』(1996)。
主人公の徹平を演じるのは加瀬亮。担当弁護士に役所広司と瀬戸朝香、友人に山本耕史、裁判官に小日向文世など隅々まで豪華なキャストが並ぶ。
満員電車で痴漢行為を咎められた徹平は無実を主張するも受け入れられず逮捕・起訴されてしまう
無実を証明する手立てを得られず焦る徹平だったが、仲間や弁護人たちは真相究明のために奔走する。『ファンシイダンス』(1989)ではお坊さん、『シコふんじゃった。』(1992)では学生相撲と、ニッチな世界を掘り下げ、専門用語を頻用しつつ観客を物語に引き込んでいく手並みは本作でも遺憾なく発揮されている。
事件当日の電車に乗り合わせていた乗客を探し出し、徹平の無実を証明するのに役立つような証言を引き出したり、当日の状況をセットで再現し、当日徹平が置かれていた状況下で痴漢が不可能であることを検証するビデオを制作するなど、あらゆる手を尽くして無罪を証明してきた徹平と仲間たちだったが、結果として有罪判決が下る。
映画は、判決を受け法廷で控訴を叫ぶ徹平を映し出して幕を下ろす。それまで無実を立証するためのアクションが綿密に描き込まれていたからこそ、それらが無に帰すラストが与える衝撃は半端ない。
真実はどうなのか? その後、徹平はどうなるのか? 映画は何も語らずに終わり、それまで物語に没入していた観客を一気に突き放す。