伊藤沙莉主演の連続テレビ小説『虎に翼』(NHK総合、午前8時放送)に出演する岩田剛典は、恐ろしく無駄のない演技で、俳優としてひとつの最高地点に到達したと考えるべきだろう。
朝ドラだけでなく、こちらも初出演となった日曜劇場の『アンチヒーロー』(TBS)では、
よりぜい肉を落としたように端正なスタイルで、台詞が少ない難役を演じ切る。
同作第8話放送日(2024年6月2日)には、
ポップカルチャーの垣根を越えるフェス『Yogibo BOOM TOKYO』が幕張メッセで開催され、
25分間のソロライブで会場を湧かせた。
イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、フェス出演直後の楽屋にお邪魔し、
話題のドラマ出演や「挑戦し続ける」日々について聞いた。
「ほんとうに心強かった」フェス参加
――ライブ出演直後でお疲れのところ、楽屋まで押し掛けてしまってすみません……。
岩田:ご無沙汰しております。とんでもないです!
――今日のライブはMCの粗品さんとのトークを含めて25分間。
まるで学園祭のような雰囲気の会場で盛り上がりましたね。
間奏にアレンジがきいていたり、
素晴らしい5曲のセットリストでした。
ソロ初となるアリーナツアー『Takanori Iwata LIVE TOUR 2024“ARTLESS”』初日公演では、
開演直前に囲み取材がありましたが、
毎回ライブの後というのはどんな気持ちですか?
岩田:今回はフェスに参加させていただきました。
通常のライブ公演の形式とは違うため、
どこかで「かまさなきゃ」と思いながらステージに立っていました。
ソロアーティストとしてはまだまだ数えるほどのフェス出演ということもあり、
とにかく新鮮な気持ちでした。
――最前列では、TEAM G(チーム岩田)が両翼を固めて声援を送っていましたね。
岩田:ほんとうに心強かったです!
MATE(三代目 J SOUL BROTHERSまたは岩田剛典ファンの呼称)のみなさんには、いつも心から感謝しかありません。
――いよいよ来週、ツアーのファイナル公演となる武道館ライブがあります。
今日のライブは助走になりましたか?
岩田:はい、それはもちろんです。
一つひとつのパフォーマンスを大切にしながら、自分は自分にできることをその場でやるのみ。
そういう精神は僕の中で常に一貫しています。
初の朝ドラ出演で話題の「マトリックス落ち」場面
――ツアーの一方、初出演の朝ドラ『虎に翼』と日曜劇場『アンチヒーロー』もそれぞれ大きな話題です。
『虎に翼』の法学生・花岡悟役で特に印象深かったのが、第4週第18回。
明律大学の面々でハイキングに出かけ、
伊藤沙莉さん扮する主人公・猪爪寅子に小突かれた花岡が、
崖から落下する場面です。
宙を泳ぐような動きで不思議な画面でした。
撮影中はどんな感覚だったんですか?
岩田:その日の撮影分を撮り終わり、
僕だけ残って日没ぎりぎりの時間帯で撮り切った場面です。
確かに合成したような画面に見えるのですが、
実際にはワイヤーアクションで後ろから引っ張られています。
ほんとうに不思議な画面ですよね。
演技をしているときは、
これがいったい、どんな画になるか、
まったく想像できませんでした(笑)。
――ゲスト出演した『朝イチ』(NHK総合、4月26日放送)では「マトリックス落ち」と形容していました。映画つながりで言うと、あれは間違いなくアルフレッド・ヒッチコックの『サイコ』(1960年)で探偵が階段から落下する場面と似ているなと思いました。
岩田:なるほど、言われてみると、確かにそう見える画面でしたね。
――『アンチヒーロー』では、殺人事件で起訴され、無罪になった緋山啓太を演じています。
緋山役は台詞が極端に少なく寒々しい印象で、
花岡役の演技とのギャップがネット上を騒がせています。
岩田さん自身、かなり意識的にコントラストをつけて演じているんですか?
岩田:花岡役と緋山役のコントラストについてはよく比較されていますが、
『虎に翼』は2023年9月からの撮影で、
実は『アンチヒーロー』と同時進行で撮影していたわけではありません。
撮影のスケジュールが重なる時期も多少はありましたが、僕としてはまったく別の役として、それぞれの役に別個で向き合いながら、
演じています。
ラジオ番組『岩田剛典 サステナ*デイズ』で紹介する作品
――花岡役と緋山役はどちらもまったく無駄がない演技だと思います。その意味で、初のレギュラーラジオ番組『岩田剛典 サステナ*デイズ supported by 日本製紙クレシア』(TOKYO FM)初回放送(4月6日)で、
レオナルド・ディカプリオの演技を紹介していたことがヒントになりました。
岩田:そんなところまで(笑)。
――と言うのも、ディカプリオの演技もまた無駄がなく、
古典的ハリウッド映画俳優の系譜にある人で、花岡を演じる岩田さんから感じる古典的佇まいは、ディカプリオ的な演技をレファレンスにしているのではないかと勝手に想像してしまったんですが……。
岩田:『岩田剛典 サステナ*デイズ』では、「Something For Tomorrow」と題して僕がお気に入りの作品をひとつ紹介しています。
でも毎週となると、これが結構大変なんです。
マーティン・スコセッシが監督した『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』(2013年)は泥臭い作風で、ほんとうに酔っ払っているんじゃないかと感じさせるディカプリオの演技が素晴らしくて、初回放送で紹介させてもらいました。
でもすみません、だからといって花岡を演じるための役作りとしてディカプリオの演技を参考にしていたわけではありません(笑)。
――そうでしたか(笑)。『ギャング・オブ・ニューヨーク』(2002年)でスコセッシとタッグを組んで以来、ディカプリオは常に過去の人物を演じています。
それが古典的な佇まいと人物の時代設定の上で花岡役の岩田さんに通じているのかなと。すみません、考え過ぎですね。
岩田:いえいえ。僕が演じた役、
そしてその作品をご覧になった方それぞれに解釈いただけるのはありがたいことです。
そうやって考察しながら見ると作品がより楽しくなりますよね。
俳優としての僕が役作りで特定の映画の演技を参考にすることはあまりありませんが、
でも潜在的というか、無意識的に影響を受けていることはあると思います。
これは演技についてではありませんが、例えば、1stアルバム『The Chocolate Box』のコンセプトを考えていたとき、何かしゃれたことをやりたいなと思っていたら、
『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994年)の有名な台詞が頭に浮かんだり。
――岩田さんが好きな作品を知ることができるのは、ファンにはたまらないと思います。
岩田:ありがとうございます。『岩田剛典 サステナ*デイズ』では、出来る限り、僕が個人的にいいと思った作品を素直にオススメしていきたいです。
岩田剛典が「挑戦し続けること」
――岩田さんの中でパフォーマーと俳優は同じものなのか、それとも感覚的に違うものなのか、どうですか?
岩田:どちらも表現ということでは同じものだと思います。
でも僕の中ではやはりまったく違う、別々のものとして捉えています。
お陰さまで今は、三代目JSBのパフォーマー、
俳優、ソロアーティストと三足の草鞋でやらせていただいています。
3つのフィールドで感じるものはそれぞれ刺激的です。
特に今年はソロでは初となるアリーナツアーを回らせていただき、
そしてありがたいことに俳優業での比重が大きいです。
――3つのフィールドそれぞれでの活躍が三位一体となることで間違いなく相乗効果を生んでいます。
岩田:それこそ今日のライブはフェス形式だったので、僕のことを知らないお客さんにも岩田剛典を知っていただくいい機会になったと思います。
――それで言うと、朝ドラ出演では、かなり多くの新しいファンを得られたのではないでしょうか?
岩田:ほんとうにそうだといいんですが(笑)。
――三足の草鞋を履いて、忙しい日々を疾走している今、岩田剛典はどこに向かっていると思いますか?
岩田:うーん、一言で表現するのは、
難しいです。でもそれは、
挑戦し続けることではあると思います。
今年11月には、三代目 J SOUL BROTHERSのドームツアーが開幕します。
『Takanori Iwata LIVE TOUR 2024“ARTLESS”』が開幕したすぐ後、春の早い段階で発表されています。
俳優業やラジオ収録を並行しながら、
ソロではアリーナツアーを回る。
今の自分にできることを全力でやりながら、
その先のことに挑戦し続ける岩田剛典をどうか見ていてください!
取材後記:ちょっとした冒険だった通路の先に
急遽、楽屋での取材となった。ましてや、
ライブ出演直後である。お疲れだろうに……。 他アーティストが今まさにパフォーマンスしているステージ裏の通路(真っ暗闇の細長い空間でスマホの明かりだけを頼りに!)、
岩田さんを先頭にして楽屋を目指してぐんぐん進む。ちょっとした冒険である。
いやいや、楽しんでる場合じゃない。
川端康成じゃないけど、
そこを抜けたら楽屋なのだ。限られた時間内で、岩田さんが今感じている生の声を引き出さなきゃならないのだから。
楽屋中央のテーブルから椅子を引いてきた岩田さんが、こちらに向かって座る。
開口一番、
岩田さんは「お忙しいところありがとうございます」なんて言うけれど、ぼくは即座に翻して「楽屋までおしかけてしまって……」と調子よく返してみることくらいしかできない。
週が明ければ、『Takanori Iwata LIVE TOUR 2024“ARTLESS”』が武道館でのファイナル公演を迎える。
それを承知で取材時間を押し込んでもらったことを考えると、
申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
にも関わらず、労りと敬意と興奮ないまぜに、面目なく岩田さんが出演する話題のドラマ作品の意外な共通点を細かく羅列して聞いてしまう。
失笑を買っても不思議ではない妄想フル稼働で。でも聞いたからには、
後は野となれ山となれ。
岩田さんは例のごとく、
やさしげな微笑を浮かべて、
やんわり受けとめてくれる。
どこまでも寛大というのか、
それこそ受け手に自由な想像の余地と飛躍を促す「夢」を共有してくれる存在だ。
自分はこういう歌を歌って、こういう作品に出演したんだけれど、
どうぞおすそ分けです。みたいな感じで。
3月23日に開幕したツアー初日公演直前に行われた囲み取材では、
「夢が叶う瞬間」と言っていた。
そう、MATEと共有してきた「夢」がまたひとつ実現したのだ。
全MATEへの感謝が込められた「Only One For Me」の歌詞には、
「“ありがとう”の言葉で 伝え切れないよね だからいつか届くまで」とある。
全国ツアーをともに回るMATEたちは、遠征中、おそらくこの曲を何度も繰り返し聴いて、
その都度、確かに「届く」ものを実感するのではないか。その一方、
(岩田さんが)「進めばどんどん 増えていく」MATEへの感謝の気持ちが、
エターナルに「旅路の途中」にあることも意味している。
岩田剛典という劇的な求心力は、
一種の“なぞなぞ”だと思う。
新作を見たり、聞いたりすれば、
毎回お題を渡されて、いろいろ想像(妄想)しながら考察してみる。
このなぞなぞを解き明かし、次なるお題に「挑戦し続ける」ために、ぼくらは率先してそのラビリンスに分け入る。
文頭で書いた暗闇は、そのラビリンスへの入口に過ぎない。地図はない。
ただし、MATE愛を滲ませる同曲のサビにある通り、
「どんなときでも そばにいる」岩田剛典が灯火になる。だから「旅路」は続く。
あの暗闇の通路の先、そのずっとずっとずっと先のほうまで。
<取材・文/加賀谷健 撮影/鈴木大喜>
【加賀谷健】音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、
大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。
ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。
日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu