映画ファンにとって毎年欠かせないイベントのひとつといえば、横浜フランス映画祭。 

今年も豪華なゲストたちによって大きな賑わいを見せましたが、 

今回はこちらの方にお話をうかがってきました。 

ヴァンサン・ラコストさん





『EDEN/エデン』や『アマンダと僕』などに出演し、

フランス映画界をけん引する若手実力派俳優として知られるヴァンサンさん。

オープニング作品『愛する時』では、

ある過去を抱えながら小さな息子と暮らす女性マドレーヌと運命の出会いを果たす裕福なインテリ学生のフランソワを演じています。

そこで、役作りの裏側や人間関係で大事にしていること、

そして日本での忘れられない思い出などについて語っていただきました。



 ―まずは、本作に出演したいと思った決め手について教えてください。 


ヴァンサンさん 監督のカテル・キレヴェレのことはよく知っていましたし

彼女の過去作『スザンヌ』もすごく好きだったので、

ぜひ仕事をしたいと考えていました。

あとは、この作品で描いているテーマも非常におもしろいし、

20年にわたるカップルの姿にもロマンがあるなと。

いろんなものが詰まっている複雑な役どころでもあったので、

友人であり素晴らしい俳優でもあるアナイス・ドゥムースティエと一緒に演じたいという思いになりました



役のアイデンティティを表現するために10キロ以上減量 



―ananwebではキレヴェレ監督に以前取材をしたことがありますが、

非常に細かいところにまでこだわりを持っていらっしゃる方という印象を受けました。

現場ではどのような演出がありましたか? 


ヴァンサンさん 確かに、彼女の演出はとてもこだわりが強いですよね。

そんななか、僕がこの役を演じるうえで言われたのは、まず痩せることでした。

なぜなら、内面のもろさや繊細さ、

そしてキャラクターの持つ優しさを身体で表現してほしいというリクエストがあったからです。

そのために糖分をまったく取らずに10キロ以上も減量しましたが、

そうすることで役のアイデンティティを表現しています。


 ―なるほど。また、劇中の2人はそれぞれの秘密を共有し合うことによって、 

特殊な愛情で結ばれていたと思いますが、

彼らの関係性をどのようにとらえましたか?






ヴァンサンさん 

 マドレーヌとフランソワは、

お互いを求めているというよりも、

社会から存在を拒否されている2人であるがゆえにお互いを支え合って生きているカップルだと思いました。

苦しい生活のなかでフラストレーションが溜まっていくところもありますが、 

真摯な愛情もあるのでそこが映画としても美しい部分だと感じています。 

人間関係で大事なのは、自分らしくいられるかどうか




 ―ご自身が人と付き合ううえで大事にしていることがあれば、お聞かせください。



 ヴァンサンさん

 僕自身は幸いなことにすごく自由に生活ができる国で、何の問題もなく暮らしているので、

恋愛に関しても自分が思う通りの人間関係が実現できていると思います。

とはいえ、自分らしくいられるかどうか、

というのは一番重要ですね。 

相手に求めているものがあるとすれば、

優しさとユーモアがあって、

いろいろな感性を持ち合わせている人であること。ともに時間を過ごすことになるので、

それらは僕にとって欠かせないものです。




―また、ヴァンサンさんはこれまでに数多くの作品に出演されており、毎回まったく違う印象を受けるのですが、作品選びはどのようにしていますか? 


ヴァンサンさん 

まず僕が作品を選ぶ際に重視しているのは、

監督がどういう人かということです。 

どんなにシナリオがよくても、

監督の解釈によって変わるので、

監督の芸術的なビジョンに自分がピンと来るかどうかは必須ですね。

 あとは、自分が観客として観たときにおもしろそうと思う作品には出たいなと考えています。 

僕にとって映画が生活の一部というのもありますが、

観客としての視点は大切にしている部分です。  オフは何よりも自分の時間を大切にしている ―ご自身の見せ方で意識されていることもあるのでしょうか。 


ヴァンサンさん 

僕は若い頃から仕事を始めたので、

最初はティーンエイジャーの役からスタートしましたが、 

その後はコメディやドラマでいろんな役を演じてきました。

そのなかでも、なるべく同じタイプの役を選ばないようにはしています。

とはいえ、俳優は提案をもらってから成り立つ仕事なので、 

いい話をもらうまでに時間がかかることもありますね





―ちなみに、オンオフはどのようにして切り替えていますか? 


ヴァンサンさん 

撮影のときは長い期間ほかのことが何もできないので、

オフのときはなるべく自分のために時間を使うように心がけています。

家族や友人に会ったり、旅行をしたり、

本を読んだり、映画を観たり、自宅のインテリアを考えてみたり、スポーツをしたり。

とにかく自分の時間を大切に考えるようにしています。 

日本の文化は、どれも特別で繊細


 ―日本に来るのは3度目とのことですが、どのような印象をお持ちですか? 


ヴァンサンさん 

いろんな文化があって素晴らしいと思いますが、そのひとつである映画には質が高くて美しい作品が多いと感じています。

そういった部分は、昔から現在まで絶えることなく受け継がれているので、

是枝裕和監督や今村昌平監督、北野武監督、濱口竜介監督といった監督の映画が僕は好きです。 ほかにも、漫画や文学、そして食にいたるまで特別な文化ですし、どれも本当に繊細ですよね。




―もし、日本での印象的な思い出などがあれば教えてください。 


ヴァンサンさん 

初めて日本に来たのは友達とのバカンスでしたが、

ちょうどフランスがワールドカップで優勝したときでした。

その瞬間は京都にあるバーにいたので、

日本人とフランス人が一緒になって喜んだことが記憶に残っています。

 それから僕は動物好きということもあり、

鹿を見に奈良に行ったこともありました。

ただ、せんべいをあげていたらどんどん鹿が集まってしまい、

せんべいはなくなったのに15匹くらいの鹿に取り囲まれて追いかけられたことも (笑) 。

あれは忘れられない経験ですね!

 人生に悩みがあるのは、とても自然なこと




―それでは最後に、ご自身と同世代のananweb読者に向けてメッセージをお願いします。


 ヴァンサンさん 

人生においてずっと悩みがあると感じることもあるかもしれませんが、

これはとても自然なことです。

なので、悩みを抱えている自分自身も受け入れていったらいいのではないかなと思います。

他人に目を向けてみれば、

みんなも将来に不安を持っている状態にあることがわかるので、 

「これは普通のことなんだ」と再認識できるはずです。 

実際、僕自身も自分がしていることが正しいかどうか、確信を持てていません。 

でも、それよりも自分に対して疑いを持ったり、悩んだりすることは悪いことではないと考えるほうがいいのではないかなと。

そうやっていろんなことに好奇心を持って乗り越えていくのは大事だと思っているので、 

みなさんにもそれを伝えたいです。

あとは、友達と話をしたり、音楽を聴いたり、映画を観たり、外に意識を開いていくような生活にしていくのもオススメですね。

  


インタビューを終えてみて…。 

これまで作品ごとにまるで違う顔を見せているヴァンサンさん。

それだけに素顔はどんな感じか楽しみにしていましたが、

フレンドリーでとても自然体な方でした。

フランス映画界には欠かせない一人でもあるので、今後も幅広い作品での活躍を期待したいところです。