これまで会った音楽家(アーティスト)の中で、一段と特別な固有名詞がふたつある。
世界的なイタリア人指揮者リッカルド・ムーティ。それから、EXILEと三代目J SOUL BROTHERS(以下、三代目JSB)のパフォーマー岩田剛典。
国籍、年齢も違う両人と共有した時間は尊い。
前者とはわずか1分にも満たない“遭遇”だったが、後者とはより長い“邂逅”が許された。
2021年9月15日、待望の1stシングル「korekara」でソロデビューした岩田さんの2ndアルバム『ARTLESS』のBlu-ray特典映像収録のためだ。 同作リリース日の2024年3月6日が、35歳の誕生日というのもめでたい話(!)。
イケメン研究をライフワークとする“イケメンサーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、
岩田さんの聞き手を担当した収録現場の舞台裏を独占的に伝える。
どこもかしこも岩田剛典 リリース前のアルバム全体を通しでリピート再生したのは初めてかもしれない。
1音も聴きもらさないくらい。
特に1月15日先行リリースのシングル「Just You and Me」は猛烈にヘビロテした。
身体になじむだけなじませてこそ広がるランドスケープ(音楽的景色)があるから。
EXILEと三代目JSBのパフォーマーであり、
2021年には満を持してソロデビューを果たした岩ちゃんこと、岩田剛典の2ndアルバム『ARTLESS』のBlu-ray特典映像の聴き手を依頼されたのも、そうした景色の特別な一部だろうか。
収録場所へ向かうため、
山の手線に揺られていると、
ちょうど渋谷駅に到着する直前、
車窓にはベンザブロックYASUMOの広告映像がビジョンに映るのが見えた。
これから本人を間近にするというのに、
岩田さんその人が目の前で大写しになる。
遠近がわからなくなる。
どこもかしこも岩田剛典な街の景色。
『ブレードランナー 2049』(2017年)のビルボード広告を思い出す。
そんなSF的な未来世界すら想像してしまう。
岩田さんの楽曲、そしてその存在にはそれくらいリスナーの妄想像を際限なく、
そして豊かに広げてしまうマジカルな響きがあるということ。
贅沢な“インタビュー収録” リリースや公開に合わせた取材というのは、
アーティスト、俳優によっては何十媒体も集まるのがざら。
そのためインタビュー時間は、
だいたい20分から25分くらい。
下手するとスチール撮影込みで15分なんてことに。
そのためインタビュアーは、
スチール撮影時間確保に苦心する。
用意した質問案に優先順位をつけてタイムキープしなければならない。
でもどうだろう、
ぼくが今回担当した“インタビュー収録”では、
何とも贅沢に時間を使わせてもらった。
収録時間は、実に1時間30分。
カメラのバッテリーチェンジの待ち時間以外、丸々インタビューにあてられた。
通常の媒体取材の4倍はゆうに超えるわけだけれど、どっこい、聴き手としてはその分だけ緊張感が持続するわけで……。
雰囲気を和ませる救いの一言 だって聴き手のぼくの目の前には、
当たり前だけれど、
収録中ずっと岩ちゃんがいることになるのだ。
スーパースターを前に、
そんな緊張をこちらはお首にも出しちゃいけない(と、今ここで書いてしまうと、
全てが明るみに……)。
命がけの一発勝負。 苦し紛れのアイスブレイクとして、
ぼくはいかに岩田さんのファンであり、
岩田剛典研究をライフワークとしてきたかを素直に打ち明けることにした。
2023年に岩田さんについて連載したコラム本数(実に21本!)を数え上げ、
「MATE」(三代目JSBファンの呼称)を自称することもいとわない。
あぁ、これはすこし気張ってしまったかなと内心ヒヤッとしたのだが、さすが岩田さんの懐は広い。
「えぇ、そんなに!」とソフトな感嘆交じりでぼくの緊張だけでなく、収録現場全体の雰囲気すら和ませてくれた。
幸先よい救いの一言に他ならなかった。
脱力感が基本姿勢 考えてみると、
それもそのはず。
2ndアルバム『ARTLESS』が意味するのは、
技術や芸術に拘泥することなく、
飾らない“ありのまま”の姿だったから。
確かに収録中、
椅子にゆったりと腰掛ける岩田さんは、
粋そのもの(某局での独占取材。
楽屋中央に置かれた簡易椅子に悠然と座り、
取材に応じる三代目JSBツインボーカル、ØMIさんのジャズ的な佇まいが思わずフラッシュバック……)。
お手本のような脱力感が基本姿勢。
収録直前、カメラ袖で岩田さんとスタンバイして軽く会話を交わしたときからすでに、
「あれっ、やけに脱力されているな」と感じたのは的外れではなかった。
それは今回のアルバム作りの前提になっているからだ。
1stトラックとしてリード曲「Paradise」を配し、岩田さんらしい作詞の技がきらめくフレーズが見事にシームレスに曲順を流してくれる。
ただし、コンセプチュアルになり過ぎない、
控えめな見え方が本作のミソ。
このシームレスな感じ、
どこかマーヴィン・ゲイ的でもある。
各トラックは、そうだな、
例えば80年代UKソウルのグランド・ビートのように洗練されたノリを感じる。
完成度や出来栄え以上に自分がライブのステージで、
その曲をパフォームしたときの青写真が常に描かれてもいる。
柔軟さと明確なビジョンに揺るぎはない。
気取らない配慮と飾らない感謝 そう、
すべてはMATEがライブを楽しめることにある。収録中、
岩田さんがもっとも言及していたのが、
他ならぬMATEへの感謝だ。
気取らない配慮と飾らない感謝が、大前提。
2ndトラック「Time after Time」のタイトル通り、「何度も何度も」感謝を口にしようとも、 決して装飾的にはならない。
むしろ、ありのままの自然体の状態から、
血の通った言葉がシームレスに出てきているような印象を受けた。
前作『The Chocolate Box』も含め、
基本的に全曲がラブソングだが、
岩田さんにとっての愛は“当たり前”を意味する。人生はすべて愛であり、
愛は人生そのもの。
時折、人生観的な哲学をさりげなく披瀝するのも、
いやはや気取りがなく、
まさにARTLESSな人柄。
そりゃ、MATEもついてくるわけだ。
岩田剛典マニアじゃないですか!」 後半戦でもまだうわずったままでいるぼくは、岩田さんが饒舌になるのをいいことに、妄想ぎみの問いかけを恥ずかしげもなくどんどん放った。「よく気づきました!」という具合に数々の神対応で応じてくれたのは奇跡に近い。 ここからは、MATE必読のBlu-ray映像未収録内容(!)。「Just You and Me」の「You」と「Me」がもしかして『シャーロック』(フジテレビ、2019年)の誉獅子雄(ディーン・フジオカ)と若宮潤一(岩田剛典)なんじゃないかと指摘したときには、さすがに失笑を買うかと思えば、今度は「何でわかったんですか!」とユーモラスな調子で逆質問。 図に乗ったぼくは懲りずに応酬を重ねる。アーティストとしてだけでなく、俳優・岩田剛典が、『ウェディング・ハイ』(2022年)や『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』(2022年)から『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』(2023年)や『誰も知らない明石家さんま』(2023年11月26日放送回)内の再現ドラマ「笑いに魂を売った男たち」へ出演歴を重ねる過程で、演じる役柄からイメージされるものが、“振り返る人”から“鏡の中の人”へとより繊細で鮮やかな宇宙的次元に到達しているのか、興奮を隠さずに伝えもした。 収録後、このコラム用の特別撮り下ろしに付き合ってもらい、岩田さんは三代目JSBドームツアー会場へ移動する。サングラスをかけてシンプルに仕上げるARTLESSな実践的スタイルのカッコよさを見送るとき、やれやれ、若干曇っていたぼくの妄想像レンズもやっと目の前の光景に対して遠近がアジャストされたように思う。 そして帰り際、ぼくの元にスタッフのひとりが小走りでやってきた。あぁ、これはちょっと聞き手にしては喋り過ぎちゃったかと即座に猛省するのも杞憂。「岩田剛典マニアじゃないですか!」という褒め言葉を聞いた途端、全身が脱力して、この名誉な体験を早くも追想した。 <取材・文/加賀谷健 撮影/鈴木大喜> 【加賀谷健】 音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu